複天一流:どんな手を使ってでも問題解決を図るブログ

宮本武蔵の五輪書の教えに従い、どんな手を使ってでも問題解決を図るブログです(特に、科学、数学、工学の問題についてですが)

東大数学2024問題5 (part 3):線分BDの役割の分析

前回のあらすじ

三角形ABDがx軸周りに回転するとき、この三角形が通過する3次元領域の体積を求めるのが本問題の最終目的であるが、前回はその練習問題として三角形ABCがx軸周りに回転する場合の領域の体積を求めてみた。これは正解の「上限値」を調べる相当する(変分法みたいな思考方法である)。上限値から正解値まで値を「下げる」には、線分BDによる積分領域の変更を加味する必要がある。場合分けが発生して多少面倒になるが、「カラータイマー」はまだ点滅してないはずである。

線分DBの表現

線分DBの上にある点Qがどのように表せるか考えたい。Qの位置をパラメータ$t$で表せると楽になる。つまりQの「座標」のようなものとして$t$という変数をどのように導入するか考察したい。

ちなみに、このような考え方は大学に入って物理学や数学を学ぶときに重要な役割を果たすだろう。たとえば、微分幾何リー代数を学ぶときに頻出する方法論、1次元多様体の「一般座標」導入や1-パラメータ群などによく似たアプローチである。ここではベクトルを使って表すのが一番簡単に実現できるやり方だと思う。

まずは線分DBとはなにか考えてみる。点Dと点Bを結ぶ線分の上に点Qがあれば、「点Qを(DからBへ)移動させる」ことによって線分DBが実現できるだろう。そこでDを起点にしてQの位置を表すことにする。 \begin{equation} \overrightarrow{D Q} = t \overrightarrow{DB}, \quad 0\le t \le 1 \end{equation} 「移動」というのはパラメータ$t$を変化させることに相当し、いわば「音声ボリュームのスライダー」を動かすようなものである。

点Qを原点から見る場合には、ベクトルの合成原理を用いて \begin{equation} \overrightarrow{O Q} = \overrightarrow{OD} + \overrightarrow{D Q} \end{equation} と基準点(原点)を変更すれば良い。ここで、それぞれのベクトルの成分を代入すると \begin{equation} \overrightarrow{O Q} = \begin{pmatrix}\frac{1-t}{2} \\ t \\ \frac{1-t}{2}\end{pmatrix} \end{equation} を得る。$t$を0から1まで動かすと点Qは線分DBをなぞるようにして描き出す。つまり$Q=Q(t)$の全体が線分DBを構成する。

線分DBと平面$x=x_0$との交点

線分DBは平面Hの上の線分であり、x軸に垂直な平面$x=x_0$と交点を持つ場合がある。図形の観察などにより、その交点は$x_0\ge \frac{1}{2}$では発生しないことは明らかである。

前回の記事で「練習問題」として考えた三角形ABCと平面$x=x_0$の「断面」だが、点Qが関わってこないならば、前回の練習成果がそのまま本問題に適用できることがわかるだろう。つまり、(天下り的に)前回求めた体積$V_1=\frac{4\pi}{81}$は$\frac{1}{3}\le x_0 \le 1$の範囲で積分した結果であったが、その部分領域$\frac{1}{2}\le x_0 \le 1$に関しては何の疑問もなくそのまま採用できる。

一方で、$0 \le x_0 \le \frac{1}{2} $の範囲においては点Qが関わってくるので、詳細な検討が必要となるが、この領域は2つの領域に分割して考えることができる。それは$0\le x_0 \le \frac{1}{3}$と$\frac{1}{3} \le x_0 \le \frac{1}{2}$である。この2つの領域に分けられる理由は、平面$x=x_0$が三角形ABDと交わる時にできる線分の端点のひとつ(実はそれが点Q)が、$y=z$という平面の「右」にあるか「左」にあるかで状況が分類できるからなのである。

もし交点である点Qが「右」にあるならば、ドーナツ領域は前回の考察した練習問題とは異なる「穴」半径をもってしまう。しかし、もし「左」にくるならば、練習問題と同じ「穴半径」のままになるのである。前者の状況が$0\le x_0\le \frac{1}{3}$で発生し、後者の状況が$\frac{1}{3}\le x_0 \le \frac{1}{2}$で発生することがこの後の分析でわかる。この結果を受け入れるならば、後者の状況は練習問題と同じ微分体積を持つので、$\frac{1}{3}\le x_0 \le 1$という積分範囲で計算すると先に考察した「練習問題」と同じ被積分関数で済むのである。

図を用いて、「右」と「左」のケースについて考察してみよう。

$(y,z)$平面に投影した場合を考える。これは$x=x_0$というx軸に垂直な平面でスライスした断面の状況をみるためである。スライスされるのは平面Hであるが、その部分領域を2つ考える。ひとつは三角形ABCに相当する部分、もうひとつが三角形ABDである。三角形ABDは、三角形ABCの部分領域でもある。つまり$\triangle\text{ABD} \subset \triangle\text{ABC} \subset \text{平面H}$という関係である。

三角形ABCと平面$x=x_0$の「断面」の方程式は、$(y,z)$平面では$y=-z + 1-x_0$、つまり$y=z$に対して垂直で、線対称な形の線分になる。それは下の図のようなグラフにおいて緑色の線として表現した線分である(下図は$x_0=0.45$の場合)。

左の場合($x_0=0.45$)

$x_0$が1/2よりも大きい場合($\frac{1}{2}\le x_0 \le 1$)、つまり線分ADと平面$x=x_0$が交点を持たない時、緑の線分の領域全体$0\le y\le 1-x_0$が「断面」となるのは明らかである。しかし、$0\le x_0 \le \frac{1}{2}$の領域では線分ADと平面$x=x_0$の交点Qが発生するので、断面は$y=-z+1-x_0$の部分領域になる。この交点Qが$y=z$の「左」にくるのか、それとも「右」にくるのかで状況が分かれるのである。

ちなみに線分ADを$(y,z)$平面に投影すると、その方程式は \begin{equation}\text{線分AD: } z = \frac{1-y}{2}\end{equation}となる。図ではこの直線を黄色で表した(以下のグラフでも同様)。

左の場合

まずは「左」の場合から見ていこう。点Qは$y=-z+1-x_0$と$y=(1-y)/2$の交点であるから、緑と黄色の線分の交点として上図では表される。$\frac{1}{2}\le x_0 \le 1$の領域においては、点Qが$z=y$の左側に現れる。このとき、前に議論した三角形ABCと平面$x=x_0$の断面と同様に、$y=z$と「ドーナツの穴」を表す円との交点(オレンジの曲線と緑の線分の交点)が体積に寄与する領域(の出発点)となっている。この交点をRと呼ぶことにすれば、その座標は$y=z$と$y=-z+1-x_0$の連立方程式の解として得ることができる。計算すると、 \begin{equation}\text{R: } (x,y,z)=\left(x_0, \frac{1-x_0}{2}, \frac{1-x_0}{2}\right)\end{equation}となる。点Qが点Rの「左」にあるときは、点Rよりも点Qの方が原点から「遠く」にある。

さて、「左」に交点Qがある場合というのは、交点Qのy座標が交点Rのy座標よりも小さい、ということに相当する。交点Qはパラメータ$t$をつかって表すことができたので、$x_0 = (1-t)/2, y=t, z=(1-t)/2$が成り立つ。$t$を消去すると$y=1-2x_0, z=x_0$となる。したがって、「左」の条件は \begin{equation} 1-2x_0 < \frac{1-x_0}{2}\end{equation}となるので、これを解くと \begin{equation} \frac{1}{3}< x_0 \le 1 \end{equation} となる。つまり、$x_0$についての積分領域がこの範囲の場合には、練習問題と同じ被積分関数$S(x_0)$を利用することができるのである。 すでに求めたように、この部分の体積$V_1$は$4\pi/81$である。

右の場合

残りの領域$0\le x_0 \le \frac{1}{3}$について考えるが、これが「右」の場合であることは(ここまでの議論から)すでに自明であろう。その具体的な例として$x_0=0.25$の場合を下図に図示してみた。確かに交点Qは$y=z$の「右側」に来ている。

右の場合($x_0=0.25$)

この場合、緑の線分における点Qからy切片($y=1-x_0$)までが「x軸まわりに回転する」ので、考慮すべき立体の体積に点Rは寄与しないことがわかるだろう。つまり、練習問題とは異なる部分が「ドーナツ領域」を形成することになる。ドーナツの外周はy切片$1-x_0$で与えられるから練習問題と同じとなるが、ドーナツの内周が、点Qと原点との距離によって与えられることになる。この時の交点(Q)の座標は, \begin{equation}\frac{1-t}{2}=x_0 = z, \quad t=y\end{equation}で与えられるので、$t$を消去し、$(x,y,z)$を$x_0$で書き直すと \begin{equation}Q(x,y,z)=(x_0, 1-2x_0, x_0)\end{equation}を得る。つまり、点Qを$(y,z)$平面に投影した点Q'と、この平面の原点O'の間の距離の二乗は、\begin{equation} (1-2x_0)^2+x_0^2 = 5x_0^2-4x_0+1\end{equation}となる。したがって、積分するべき「ドーナツ領域」の面積は\begin{equation}S'(x_0)=\pi\left\{ (1-x_0)^2 - (5x_0^2-4x_0+1)\right\}\end{equation} となって、これを$0\le x_0 \le \frac{1}{3}$の区間積分すると\begin{equation}V_2=\int_0^{1/3}S'(x_0)dx_0 = \frac{5}{81}\pi\end{equation}を得る。

結論

したがって、求めるべき立体の体積は\begin{equation}V=V_1+V_2=\frac{\pi}{81}\left(4+5\right) = \frac{\pi}{9}\end{equation}となる。$\square$

東大に入学するために必要な内容はここまでで十分であるが、我々が目指すのは「複天一流」である。つまりあらゆる手段を用いて、この問題に対処するのである。前にも書いたが、東大は立体図形の問題を必ず毎年1題出題する傾向がある。つまり、これからも立体図形を扱う機会が必ず出てくることになる。東大の問題における立体図形の問題は、実のところ、直感的な理解が進めば計算自体は簡単なことが多いので、プログラミングを用いて、立体図形を分析する手段をここで開発しておきたいと思う次第である。できれば、スライドバーかなにかで、立体図形をぐりぐりと動かして、好きな角度から観察できるようなGUIが欲しいものである。