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宮本武蔵の五輪書の教えに従い、どんな手を使ってでも問題解決を図るブログです(特に、科学、数学、工学の問題についてですが)

東大数学2024問題6 (part 12):数値計算に飽きてきたので解析的分析を少々

前回のあらすじ

ここしばらく数値計算ばかりやってきたので少々飽きてきた感じがある。そこで受験のときにやるような解析的な分析を久しぶりに少々やってみることにする。

今回もケース3、ケース4の場合、つまり二次関数$k(x)=x^2+ax+b$の部分が、素数$p\in \mathbb{P}$に対して、$k(\pm p)=\pm 1$になる場合である。つまり、\begin{align} g(p)= & pk(p)=p \cdots \text{ケース3} \\ g(-p)= & -pk(-p)=p \cdots \text{ケース4}\end{align}に相当する。

ケース3の場合

ケース3の場合というのは結局$k(p)=1$の場合を意味するので、\begin{equation}p^2+ap+b-1=0\end{equation}という2次方程式の解が素数になる条件を探してみよう、ということになる。2次方程式の解は下手すると複素数、下手しなくても多くの場合には実数となるから、素数どころか整数解を見つけることすら(普通は)難しいのは周知のことである。

$p$が整数解となるためには、判別式が平方数となるのが最初の必要条件である。すなわち適当な整数$S$を使って\begin{equation}D=a^2-4(b-1) \rightarrow S^2\end{equation}という形となる$(a,b)$を探し出すのが、整数解$p$を得るための条件である。

この式をどうやって「調理」したらよいのか試行錯誤を結構繰り返したのだが、結局は「なるべく特別な仮定を導入しない」のが近道だと悟った。

特別な仮定というのは、たとえば$a$と$b$がなんらかの関係で結ばれていたりとか、そういう仮定である。しかし、仮定を一つおくと、その仮定がたとえうまく行ったとしても、その仮定ではカバーできないケースがあるのかないのかを次のステージで考える羽目に陥り、精神が消耗するのである。これではアインシュタイン方程式の特別解のサーチと同じ水準の困難に囚われてしまう(笑)。

そこで今回は素直に\begin{equation}a^2-4(b-1)=S^2\end{equation}と置くことにした。ここに登場する文字はすべて整数であるから、割り算は可能な限り避けるという方針をおく。とはいえ、因数分解は許す(割り切れる割り算は特別扱いするということ)。ということで、次のように変形する。\begin{equation}(a-S)(a+S) = 4(b-1)\end{equation}

右辺が偶数であることに注意する。となると左辺は2つの因子の掛け算なので、(奇数X奇数)の組み合わせが除外されることになる。これは$a,S$がそれぞれ偶数と奇数(その反対も)の場合が除外されるということである。ということで、$(a,S)$が共に偶数、あるいは共に奇数の場合を考えることにしょう。

共に偶数の場合

$a=2\ell, S=2m$と置く。判別式が平方数となる条件の式は次のように書き直すことができる。 \begin{equation}(\ell-m)(\ell+m)=b-1\end{equation} なんとなくクレプシュゴルダン係数を求める公式によく似た雰囲気をもっている関係式である(まったく無関係であるが[笑])。

この値を利用するとケース3の解は\begin{equation}p_3=-\ell-m, -\ell+m\end{equation}であることが計算するとわかる(角運動量の合成みたいな結果であるが、もちろん無関係である)。2つの素数解を$p_3, p_3'$と書けば\begin{equation}\left(\begin{array}{c}\ell \\ m\end{array}\right) = \frac{1}{2}\left(\begin{array}{cc}-1& -1\\ 1 & -1\end{array}\right)\left(\begin{array}{c}p_3\\ p_3'\end{array}\right)\end{equation} つまり、$\ell$, $ m $が整数になるためには、$p_3,p_3'$が共に偶数か共に奇数でなくてはならない。しかしながら素数の中で偶数は2一つのみしかないので、前者の可能性はない。よって、後者の「$p_3,p_3'$両者共に奇数」の場合だけが生き残る。

たとえば、$p_3=5, p_3'=3$になるようにしたければ、$a=-8, b=16, S=2$を選ぶことになる。

この場合、ケース4が複素数解を与えることを一応確かめておこう。 $k(p_4)=p_4^2-8p_4+16 = -1$となるので、判別式は$D=4^2-17 = -1<0$となって予想通りである。

となると、残り2つの素数解はケース1とケース2によって与えられなければならない。すなわち \begin{equation} p_1=-8+16+1 = 9, \quad p_2 = -(-8)+16+1 = 25 \end{equation} と計算されるがどちらも素数ではないからダメである。

この具体例から予想できるのは、$a=2\ell, b=(\ell-m)(\ell+m)+1$の場合、$p_1,p_2$は因数分解された表式になってしまうだろう、ということである。実際に計算してみると予想が正しいことが確認できる。たとえば、 \begin{equation} p_1 = a+b+1 = 2\ell + (\ell - m)( \ell + m) + 1 = (\ell-m+1)(\ell+m+1) \end{equation} となるから素数にはなり得ないことがすぐに確認できる。 (それにしても、この計算結果はClebsh-Gordan係数の計算で見かける値によく似ている...)

同様に$p_2$も \begin{equation} p_2 = -a+b+1 = ( \ell - m - 1)( \ell + m -1) \end{equation} となって因数分解された形で表せることが確認でき、素数とはならないことがわかる。

また、$p_4$が実数解になってしまうことは、対応する判別式が平方数になっていないことを示せば十分である。 すなわち、 \begin{equation} D=( 2\ell ) ^2 - 4( \ell^2-m^2+2 )=4(m^2-2) \end{equation} となるが、これが平方数になるには整数$j$を用いて \begin{equation} m^2-2=j^2 \end{equation} と書けなくてはならない。この式を変形すると$(m-j)(m+j)=2$となるが、2は素数なので$1\cdot 2$あるいは$2\cdot 1$以外にはありえない。 とすると$m-j=1, m+j=2$あるいは$m-j=2,m+j=1$となるはずで、これを解くと、前者は$(m,j)=(3/2, 1/2)$, 後者は(3/2, -1/2)となる。つまり整数$m,j$が半整数になってしまい、満たすべき条件が破られる(なんだかフェルミオンのスピンみたいである)。ということで、ケース3が2つの素数解を与えるように$a,b$を決めると、ケース4は一つも整数解を与えることができなくなることが示されたのである。

ということで、この場合は最大で2つの素数解しか見つからないことが証明された。$\square$

共に奇数の場合

同じような考察を丁寧に繰り返せばいいはずである。今回はここで休憩としよう。この証明で何か面白いことが起きれば次回再開することにする。もし上の考察と似たような内容が繰り返されるようなら省略することにする。(つづく)