複天一流:どんな手を使ってでも問題解決を図るブログ

宮本武蔵の五輪書の教えに従い、どんな手を使ってでも問題解決を図るブログです(特に、科学、数学、工学の問題についてですが)

東大数学2024問題5 (part 3):線分BDの役割の分析

前回のあらすじ

三角形ABDがx軸周りに回転するとき、この三角形が通過する3次元領域の体積を求めるのが本問題の最終目的であるが、前回はその練習問題として三角形ABCがx軸周りに回転する場合の領域の体積を求めてみた。これは正解の「上限値」を調べる相当する(変分法みたいな思考方法である)。上限値から正解値まで値を「下げる」には、線分BDによる積分領域の変更を加味する必要がある。場合分けが発生して多少面倒になるが、「カラータイマー」はまだ点滅してないはずである。

線分DBの表現

線分DBの上にある点Qがどのように表せるか考えたい。Qの位置をパラメータ$t$で表せると楽になる。つまりQの「座標」のようなものとして$t$という変数をどのように導入するか考察したい。

ちなみに、このような考え方は大学に入って物理学や数学を学ぶときに重要な役割を果たすだろう。たとえば、微分幾何リー代数を学ぶときに頻出する方法論、1次元多様体の「一般座標」導入や1-パラメータ群などによく似たアプローチである。ここではベクトルを使って表すのが一番簡単に実現できるやり方だと思う。

まずは線分DBとはなにか考えてみる。点Dと点Bを結ぶ線分の上に点Qがあれば、「点Qを(DからBへ)移動させる」ことによって線分DBが実現できるだろう。そこでDを起点にしてQの位置を表すことにする。 \begin{equation} \overrightarrow{D Q} = t \overrightarrow{DB}, \quad 0\le t \le 1 \end{equation} 「移動」というのはパラメータ$t$を変化させることに相当し、いわば「音声ボリュームのスライダー」を動かすようなものである。

点Qを原点から見る場合には、ベクトルの合成原理を用いて \begin{equation} \overrightarrow{O Q} = \overrightarrow{OD} + \overrightarrow{D Q} \end{equation} と基準点(原点)を変更すれば良い。ここで、それぞれのベクトルの成分を代入すると \begin{equation} \overrightarrow{O Q} = \begin{pmatrix}\frac{1-t}{2} \\ t \\ \frac{1-t}{2}\end{pmatrix} \end{equation} を得る。$t$を0から1まで動かすと点Qは線分DBをなぞるようにして描き出す。つまり$Q=Q(t)$の全体が線分DBを構成する。

線分DBと平面$x=x_0$との交点

線分DBは平面Hの上の線分であり、x軸に垂直な平面$x=x_0$と交点を持つ場合がある。図形の観察などにより、その交点は$x_0\ge \frac{1}{2}$では発生しないことは明らかである。

前回の記事で「練習問題」として考えた三角形ABCと平面$x=x_0$の「断面」だが、点Qが関わってこないならば、前回の練習成果がそのまま本問題に適用できることがわかるだろう。つまり、(天下り的に)前回求めた体積$V_1=\frac{4\pi}{81}$は$\frac{1}{3}\le x_0 \le 1$の範囲で積分した結果であったが、その部分領域$\frac{1}{2}\le x_0 \le 1$に関しては何の疑問もなくそのまま採用できる。

一方で、$0 \le x_0 \le \frac{1}{2} $の範囲においては点Qが関わってくるので、詳細な検討が必要となるが、この領域は2つの領域に分割して考えることができる。それは$0\le x_0 \le \frac{1}{3}$と$\frac{1}{3} \le x_0 \le \frac{1}{2}$である。この2つの領域に分けられる理由は、平面$x=x_0$が三角形ABDと交わる時にできる線分の端点のひとつ(実はそれが点Q)が、$y=z$という平面の「右」にあるか「左」にあるかで状況が分類できるからなのである。

もし交点である点Qが「右」にあるならば、ドーナツ領域は前回の考察した練習問題とは異なる「穴」半径をもってしまう。しかし、もし「左」にくるならば、練習問題と同じ「穴半径」のままになるのである。前者の状況が$0\le x_0\le \frac{1}{3}$で発生し、後者の状況が$\frac{1}{3}\le x_0 \le \frac{1}{2}$で発生することがこの後の分析でわかる。この結果を受け入れるならば、後者の状況は練習問題と同じ微分体積を持つので、$\frac{1}{3}\le x_0 \le 1$という積分範囲で計算すると先に考察した「練習問題」と同じ被積分関数で済むのである。

図を用いて、「右」と「左」のケースについて考察してみよう。

$(y,z)$平面に投影した場合を考える。これは$x=x_0$というx軸に垂直な平面でスライスした断面の状況をみるためである。スライスされるのは平面Hであるが、その部分領域を2つ考える。ひとつは三角形ABCに相当する部分、もうひとつが三角形ABDである。三角形ABDは、三角形ABCの部分領域でもある。つまり$\triangle\text{ABD} \subset \triangle\text{ABC} \subset \text{平面H}$という関係である。

三角形ABCと平面$x=x_0$の「断面」の方程式は、$(y,z)$平面では$y=-z + 1-x_0$、つまり$y=z$に対して垂直で、線対称な形の線分になる。それは下の図のようなグラフにおいて緑色の線として表現した線分である(下図は$x_0=0.45$の場合)。

左の場合($x_0=0.45$)

$x_0$が1/2よりも大きい場合($\frac{1}{2}\le x_0 \le 1$)、つまり線分ADと平面$x=x_0$が交点を持たない時、緑の線分の領域全体$0\le y\le 1-x_0$が「断面」となるのは明らかである。しかし、$0\le x_0 \le \frac{1}{2}$の領域では線分ADと平面$x=x_0$の交点Qが発生するので、断面は$y=-z+1-x_0$の部分領域になる。この交点Qが$y=z$の「左」にくるのか、それとも「右」にくるのかで状況が分かれるのである。

ちなみに線分ADを$(y,z)$平面に投影すると、その方程式は \begin{equation}\text{線分AD: } z = \frac{1-y}{2}\end{equation}となる。図ではこの直線を黄色で表した(以下のグラフでも同様)。

左の場合

まずは「左」の場合から見ていこう。点Qは$y=-z+1-x_0$と$y=(1-y)/2$の交点であるから、緑と黄色の線分の交点として上図では表される。$\frac{1}{2}\le x_0 \le 1$の領域においては、点Qが$z=y$の左側に現れる。このとき、前に議論した三角形ABCと平面$x=x_0$の断面と同様に、$y=z$と「ドーナツの穴」を表す円との交点(オレンジの曲線と緑の線分の交点)が体積に寄与する領域(の出発点)となっている。この交点をRと呼ぶことにすれば、その座標は$y=z$と$y=-z+1-x_0$の連立方程式の解として得ることができる。計算すると、 \begin{equation}\text{R: } (x,y,z)=\left(x_0, \frac{1-x_0}{2}, \frac{1-x_0}{2}\right)\end{equation}となる。点Qが点Rの「左」にあるときは、点Rよりも点Qの方が原点から「遠く」にある。

さて、「左」に交点Qがある場合というのは、交点Qのy座標が交点Rのy座標よりも小さい、ということに相当する。交点Qはパラメータ$t$をつかって表すことができたので、$x_0 = (1-t)/2, y=t, z=(1-t)/2$が成り立つ。$t$を消去すると$y=1-2x_0, z=x_0$となる。したがって、「左」の条件は \begin{equation} 1-2x_0 < \frac{1-x_0}{2}\end{equation}となるので、これを解くと \begin{equation} \frac{1}{3}< x_0 \le 1 \end{equation} となる。つまり、$x_0$についての積分領域がこの範囲の場合には、練習問題と同じ被積分関数$S(x_0)$を利用することができるのである。 すでに求めたように、この部分の体積$V_1$は$4\pi/81$である。

右の場合

残りの領域$0\le x_0 \le \frac{1}{3}$について考えるが、これが「右」の場合であることは(ここまでの議論から)すでに自明であろう。その具体的な例として$x_0=0.25$の場合を下図に図示してみた。確かに交点Qは$y=z$の「右側」に来ている。

右の場合($x_0=0.25$)

この場合、緑の線分における点Qからy切片($y=1-x_0$)までが「x軸まわりに回転する」ので、考慮すべき立体の体積に点Rは寄与しないことがわかるだろう。つまり、練習問題とは異なる部分が「ドーナツ領域」を形成することになる。ドーナツの外周はy切片$1-x_0$で与えられるから練習問題と同じとなるが、ドーナツの内周が、点Qと原点との距離によって与えられることになる。この時の交点(Q)の座標は, \begin{equation}\frac{1-t}{2}=x_0 = z, \quad t=y\end{equation}で与えられるので、$t$を消去し、$(x,y,z)$を$x_0$で書き直すと \begin{equation}Q(x,y,z)=(x_0, 1-2x_0, x_0)\end{equation}を得る。つまり、点Qを$(y,z)$平面に投影した点Q'と、この平面の原点O'の間の距離の二乗は、\begin{equation} (1-2x_0)^2+x_0^2 = 5x_0^2-4x_0+1\end{equation}となる。したがって、積分するべき「ドーナツ領域」の面積は\begin{equation}S'(x_0)=\pi\left\{ (1-x_0)^2 - (5x_0^2-4x_0+1)\right\}\end{equation} となって、これを$0\le x_0 \le \frac{1}{3}$の区間積分すると\begin{equation}V_2=\int_0^{1/3}S'(x_0)dx_0 = \frac{5}{81}\pi\end{equation}を得る。

結論

したがって、求めるべき立体の体積は\begin{equation}V=V_1+V_2=\frac{\pi}{81}\left(4+5\right) = \frac{\pi}{9}\end{equation}となる。$\square$

東大に入学するために必要な内容はここまでで十分であるが、我々が目指すのは「複天一流」である。つまりあらゆる手段を用いて、この問題に対処するのである。前にも書いたが、東大は立体図形の問題を必ず毎年1題出題する傾向がある。つまり、これからも立体図形を扱う機会が必ず出てくることになる。東大の問題における立体図形の問題は、実のところ、直感的な理解が進めば計算自体は簡単なことが多いので、プログラミングを用いて、立体図形を分析する手段をここで開発しておきたいと思う次第である。できれば、スライドバーかなにかで、立体図形をぐりぐりと動かして、好きな角度から観察できるようなGUIが欲しいものである。

東大数学2024問題5 (part 2):断面の形の分析

前回のあらすじ

熱中症に苦しめられてしばらく手がつけられなかった数学問題の研究であるが、熱中症の理解が進み、対処法がわかったことで体調が改善し、再開することができた。

熱疲労」の残る脳みそなので、今回は「カラータイマー点滅」までになんとかなりそうな立体図形の問題に挑むことにした。問題の概要を理解し、円錐の体積が関連するらしいところまで分析は進んだ。今回はいよいよ積分のところに踏み込んでみたい。

断面の形(練習)

平面Hの部分領域が三角形ABDである。これをx軸周りに回転させた時、三角形が通過する領域の体積を求めるのがこの問題の主旨である。

x軸を対称軸とする「軸対称性」があるので、積分はx軸に沿って実行するべきである(ちなみに、これは古典電磁気学でよくやるタイプの計算手法である)。本問では三角形ABDについて考察しなくてはならないが、面倒臭い場合わけが発生するので、まずは三角形ABCについて問題を解いてみたい。ある意味「練習」問題ということになろう。これなら積分範囲に場合分けが発生しないので、積分計算の主要点を理解するには打ってつけである。また、三角形ABDは三角形ABCの部分領域になっているから、求めるべき体積は、この練習問題で求めた体積よりも小さな値となるはずだ。つまり正解に対する「上限値」が手に入ることになる。

こういうやり方は物理でよく使われる。精密な値を出す前に、簡単に解けるモデルを解いて「上限値」や「下限値」を手にして、実験の目安とする手法である。ヒッグス粒子ニュートリノの質量などもこういう方法でまず上限値が計算され、実験データの分析や加速器のデザインに利用された。

三角形ABCを表す平面の方程式は$x+y+z-1=0$で、その範囲は$0\le x \le 1,0\le y \le 1,0\le z \le 1$である。

次に$x=x_0, 0\le x_0 \le 1$という平面を用意する。これはx軸に垂直な平面である。この平面で三角形ABCを「切断」したときの断面は線分になる。この線分をx軸周りに回転させたものが、求める体積の「微分体積」に相当する。まずは、切断面に相当する線分の方程式を求めよう。といっても、平面Hの方程式と切断平面$x=x_0$とを連立するだけなので、 \begin{equation} z = -y+ 1 -x_0 \end{equation} となる。$(y,z)$平面で考えたとき、この方程式の第一象限の部分が求める「断面」つまり線分である。傾きは$-1$なので、z切片、y切片共には$1-x_0$である。この線分をx軸周りに回転させると、(2次元版の)穴あきドーナツのような形になる。

「ドーナツ領域」$x_0=0.25$の場合
その外周半径の大きさは自明で$1-x_0$であるが、穴の半径については$(y,z)$平面の原点から線分までの「距離」となる。距離の公式を用いても良いが、線分の傾きが$-1$つまり45度の「斜面」なので、ピタゴラスの定理を使えば、$(1-x_0)/\sqrt{2}$となることは簡単にわかる。

したがって、このドーナツ型の面積$S(x_0)$は \begin{equation} S(x_0) = \pi\left(1-x_0\right)^2 - \pi\left(\frac{1-x_0}{\sqrt{2}}\right)^2 = \frac{\pi}{2}\left(1-x_0\right)^2 \end{equation} で与えられる。

求めるべき立体の、厚み$dx_0$をもった「断面」に相当する微小体積は$dV(x_0) = S(x_0)dx_0$であるから、これを積分すると三角形ABCをx軸周りに回転させた時の立体の体積が計算できる。積分範囲は$x_0$のそれであるから、 \begin{equation} V_{\triangle\text{ABC}} = \int_0 ^1 S(x_0) dx_0 = \frac{\pi}{6} \end{equation} となる。

あとで計算するが、本問題の正解は \begin{equation} V_{\triangle\text{ABD}}= \frac{\pi}{9} \end{equation} となるので、予想通り \begin{equation} V_{\triangle\text{ABD}} < V_{\triangle\text{ABC}} \end{equation} が成立していることがわかる。

積分の主な内容は、この練習問題でみた計算とほぼ同じである。やり残しているのは、三角形ABDと三角形ABCでは、辺ADと辺ACの不一致からくる修正点だけである。この修正点によって積分範囲に変更が発生し、計算結果が変わるのである。

とはいえ、修正するのは積分範囲のうち$0\le x_0 \le \frac{1}{3}$の部分だけであり、残りの$\frac{1}{3}\le x_0 \le 1$の範囲については上の積分がそのまま利用できる(ことが後でわかる)。その領域の体積を$V_1$と書き表すことにして、ここで計算してしまうことにする。 \begin{equation} V_{1} = \int_{1/3} ^1 S(x_0) dx_0 = \frac{4\pi}{81} \end{equation} となる。この結果は後で再利用するので記憶しておこう。

ドーナツ領域を描くgnuplotスクリプト
x0=0.25

set size square
set samples 100000

set arrow 1 from 0,0 to 1,0
set arrow 2 from 0,0 to 0,1

set xlabel "X"
set ylabel "Y"

set style fill transparent solid 0.4

c1(x)=(x<1-x0)? sqrt((1-x0)**2 - x**2) : NaN
c2(x)=(x<(1.-x0)/sqrt(2.))? sqrt((1-x0)**2/2. - x**2) : NaN

plot "+" using 1:(c1($1)):(c2($1)) with filledcurves y=0 fc "#224411" notitle,\
-x+1-x0 lw 2, \
c1(x) lw 2, \
c2(x) lw 2

東大数学2024問題5 : 立体図形の問題

久しぶりの問題分析

熱中症、夏バテなど言い訳はいろいろあるのだが、とにかく間が空いてしまったことは反省である。地球温暖化のせいだろうか、今年は梅雨の時期になってもなかなか梅雨が始まらず、蒸し暑い日に苦しむ日々が続いていた。

そのうえ、梅雨入りしたと思ったらあっというまに梅雨明けとなり、梅雨時期よりもさらに暑い日々がやってきた。熱中症との戦いが始まったのであった。熱中症にかかって一度具合が悪くなると、数日は体調不良のため体を動かす仕事はもちろん、頭を使う仕事も全くできなくなってしまう。これが熱中症という病気のもっとも恐ろしい点であると、この夏は身に染みて理解した。脳の「性能低下」によるパフォーマンス不足というべきだろうか?(熱劣化?)ということで、まともな研究を行い、日々の業務をいつものようにこなしていくためには、熱中症について対策を講じする必要が生じた。真剣に調べてみたのはこれが初めてのことで、その成果をここにまとめておくことにした。

まとめたあとで、2024年の入試問題についての分析を(久しぶりに)行ってみたい。とはいえ、「熱劣化による性能低下」が如実に現れるのが立体図形問題である。3次元図形というのは図面として描き出しにくく、直感的な理解がなかなか面倒である。頭の中での想像力が必要とされるのだが、この「立体認識能力」というのは「脳力の消費」がかなり激しく、長時間の思考はなかなか難しい(ウルトラマンのように3分程度が精一杯である)。立体図形の問題は東大の「看板娘」のようなものであり毎年必ず出題されるから、「獲物」としては打って付けであるはずなのだが、苦手意識が出てしまうと厄介なことになる。この問題を突破するには、カラータイマーが点滅する前になんとかケリをつけるか、あるいは2次元の問題に落とし込んでから勝負するのが常套手段である(今回は後者でいくため、多少熱中症ボケがあってもなんとかなる)。

熱中症とはなにか?

さて、熱中症である。梅雨明けの直後のころにAMラジオでAFNを聴いていたとき、「熱中症に気をつけよう」キャンペーンの特番を米軍が放送していた。その内容に基づくと、英語(アメリカ英語)では熱中症は「Heat exhaustion」というらしい。

そういえば夏に限らずAFNでは米兵たちに「脱水に気をつけよう」というアドバイスをよく出しているが、そこでは"Dehydration"という用語を使っている(台湾海峡やフィリピン、南太平洋など暑い地域での「活動」に彼らはよく従事しているからであろう)。

Hydrate yourself to prevent dehydration

というのは「脱水を防ぐために水分補給をしよう」という意味だが、英語では「脱水」と「水分補給」が同じ用語の肯定型と非定型を用いて表現されるので、どちらか一方だけで意味が通じてしまう。つまり、

Hydrate yourself

あるいは

Prevent dehydration

でよいので、日本語より便利な感じがする。ちなみに、"hydrogen"は水素を意味する。

熱中症のキャンペーン特番を聞く前は、「たぶん熱中症というのも脱水(dehydration)と表現するのだろうな」とぼんやりと考えていた。しかし、キャンペーンの内容を聞くと、どうやら熱中症と脱水というのを使い分けているように聞こえるのである。そこで今度は日本語ではどうなっているのか調べてみることにした。ちなみに和英翻訳で調べると熱中症のことを"heat stroke"あるいは"heat shock"と説明するものが結構ある。これはもしかすると医学用語なのではないか、あるいはヨーロッパ系の言語ではこちらを採用しているのかもしれない。間違いではないだろうが、少なくともアメリカ軍では「Heat exhaustion」という言葉を採用しているようである。

"stroke"とか"shock"というと「発作」という感じがする。一方で"exhaustion"というのは「疲労」である。実際に熱中症に罹ってみて実感したのは、どちらかというと「疲労」の方である。つまり、米軍の表現の方が「しっくり」くる感じがある。

さて、日本語では熱中症と脱水症状を分けているのであろうか?日常的な用法からすると分けているように感じはするものの、「じゃあ違いはなんだ?」と言われてもなかなか即答はできない。そこで検索してみることにした。

熱中症と脱水症状の違い

まずヒットしたのが、経口補水液のメーカーのHPであった。

www.os-1.jp

このページによると、熱中症は「脱水と高体温症による体調不良の症状」ということであり、熱中症$\subset$脱水症状、という集合関係がありそうである。そして脱水は「体内の体液が失われること」と定義され、さらに「体液とは水分と電解質のこと」とある。つまり、血液などから水分が減ってしまうのみならず、そこに溶け込んでいるナトリウムやカリウムなどの電解質(イオン)も減少する状態が、脱水状態ということになる。

脱水症状が続くと汗などをかきにくくなり、蒸発熱による体温調節が難しくなる。これが継続すると体温が上がり、内臓の機能や細胞の構造などに障害や損傷が現れ始め、病気の状態へと陥ってしまう。この最後の状態がおそらく「熱中症」なのであろう。

NHKのHPでは、まず熱中症について説明がある。 www.nhk.jp

それによると、「適切な体温に調整できない異常な生理的状態に陥り、体内に熱が溜め込まれてしまった状態」とある。この状態に陥る引き金になるのが脱水症状、つまり体液(=水分+電解質成分)が減少した状態、ともある。

ということで、脱水症状は熱中症原因であり、熱中症は脱水症状の結果であるということになる。言い換えれば、熱中症には至らない脱水症状は存在する。そして熱中症になっていれば、大抵の場合すでに脱水症状に陥っているということになるのであろう(脱水ではない熱中症の例はおそらくないだろうが、まだ完全には確認しきれていないので、これからの研究テーマとなりうる)。

まずは脱水症状に陥らないようにすることで、熱中症を防ぐことができそうな感じである。つまり必要条件というわけなので、そこを叩いてしまえば熱中症にはならない、という結論である。

そこで、水だけではなく、電解質も摂取するように心掛けるようにした。とたんに、梅雨明け直後から連日続いていた朝の頭痛を伴う体調不良が消失し、1日を通して元気に生活できるようになったのである。かかりつけの医者によると、電解質と水分補給にはスポーツドリンクが良いらしいが、糖分が多いためそこが体によくないので、麦茶、スポーツドリンク、そしてただの水を順番に飲み回すのがよいとのことである。ちなみにお茶は脱水症状を促すのでやめた方がよいらしい。「気がついたら水分補給」(だいたい30分にコップ一杯)の時間間隔でやってみたら、この夏の体調は劇的に改善したのである!もっと早く調べておけばよかった、と反省しているところである。

2024数学 問5

さて余談はこのくらいにしておいて、頭の回転が熱疲労でいまひとつではあるが、そろそろ使わないと錆びついてしまうのも確かである。問題文をまずは読んでみる。

問題5の問題文

3次元空間に3点A,B,Cが与えられていて、それぞれx軸、y軸、z軸上の単位位置(つまり原点から1の距離の場所)に設定されている。この3点によって平面Hが形成される。計算してみれば、それは\begin{equation} \text{H: } x+y+z-1=0\end{equation}で与えられる。線分ACの中点として定義される点Dの座標は\begin{equation} \text{D: } \left(\frac{1}{2},0,\frac{1}{2}\right)\end{equation}である。$\triangle\text{ABD}$は平面Hの部分領域であることは自明だろう。

近年のビデオゲームでは、立体を小さな三角形で覆うことで近似する。ポリゴンという名前で呼ばれることもあると思う。したがって、3Dゲームの基本である、ポリゴンの回転は、各々の三角形の回転によって表現することになる。この問題は三角形ABDをx軸の周りに回すので、ゲームプログラミングで頻出する計算の「基礎」とも言えるものである。したがって、ゲームプログラマーを目指す諸君は(東大に落ちたとしても)この問題だけは絶対に落としてはいけいないのである! 

まずは図形の概形を調べてみよう。まずはいつものようにgnuplotで最低限の状況を再現してみる。平面Hを$x\ge 0, y\ge 0, z\ge 0$の領域で描いてみた。

点A,B,Cがつくる三角形状の平面Hの様子

出てきたのは正三角形の領域である。

次に、点A, Cの中点であるDを打ち、DとBを結んで線分を作る。これで平面Hの部分領域である三角形ABDがどんな感じに配置されるか観察することができるようになった(こちらのほうはgnuplotではなく手書きで書き入れた)。

三角形ABDの概形を見る

この三角形ABDをx軸の周りに回転させたとき、三角形が空間を移動する部分の領域の面積を求めよ、というのが問題の主旨であるが、それはなんとなく三角錐が関わっていることを予想することができるだろう。こういう場合は、極端な具体例を2、3考え、その間を埋める形で一般化をしていけばよいのであるが、今回は点A, B, そしてDがどのような軌道を描くか考えると、扱うべき立体図形が見えてくる(ここまでで、1分が経過である=カラータイマー点滅まであと2分)。

点Aはx軸上にあるので、それをx軸に回転させると半径0の円の軌跡、つまり点Aのままである。ここが円錐の頂点になることが後でわかるだろう。

点Bは半径1の円の軌跡を描く。したがって、線分ABが描くのは底面が半径1の円となっているような円錐の側面領域である。

一方、点Dはxz平面にあるので、回転させると半径1/2の円周を描く。

バームクーヘンのように、軸周り(今回はx軸)に回転させてつくる立体であるから、x軸に垂直な平面によってできる断面を見ながら考察をすすめるのが合理的であろう。より具体的にいうと、x軸に垂直な平面$x=x_0, 0\le x_0 \le 1$と三角形ABDを形成する平面Hの部分領域の交線の長さや傾きを炙り出すのが、問題解決の入り口ということになる。

gnuplotスクリプト

久しぶりに動かしたgnuplotについては、命令をかなり忘れていたのでこちらのHPを参考にさせていただいた。こういう実例豊富な解説は使い勝手がとてもいいので感謝です。

上の図形を描くのに作ったスクリプトは以下の通り。

set xrange [0:1]
set yrange [0:1]
set zrange [0:1]


set size square
set size 0.7, 1.0

set isosamples 100

set hidden3d

set contour
set cntrparam levels 10

set arrow 1 from 0,0,0 to 1,0,0
set arrow 2 from 0,0,0 to 0,1,0
set arrow 3 from 0,0,0 to 0,0,1

set xlabel "X"
set ylabel "Y"
set zlabel "Z"

splot -x-y+1

運動方程式の解空間の「次元」

微分方程式の解が形成するベクトル空間...

...のことを「解空間」というらしい。n階の線形微分方程式の解空間の次元はnであるという定理はよく知られている。

今日の講義(古典力学)で扱ったのは、抵抗有りの場合の1次元調和振動子(減衰振動)の運動方程式 \begin{equation} \frac{dp}{dt}=-m\omega^2 x -2m\gamma v \end{equation} だったが、数学的にはまさにこれは2階線形微分(同次)方程式であるから、その解空間の次元は2である。したがって、一般解は線型独立な2つの解の線型結合となる。

例えば、抵抗係数の方が振動数よりも劣勢な場合($\gamma < \omega$)、一般解は2つの結合定数$C_1, C_2$を用いて \begin{equation} x(t) = \exp(-\gamma t)\left(C_1 \cos \omega't + C_2 \sin\omega't\right) \end{equation} で表せる。ただし$\omega'=\omega\sqrt{1-\gamma^2/\omega^2}$。

この線型結合の形は、あたかも2次元の実空間におけるベクトル$\boldsymbol{v}$の表現のようである。 \begin{equation} \boldsymbol{v} = x\boldsymbol{ e }_x + y\boldsymbol{e}_y \end{equation}

高校の数学では、これを$\boldsymbol{v}=(x,y)$と書く場合があると思うが、これに倣うと減衰振動の運動方程式の一般解は$(C_1, C_2)$と書いてもいいだろう。要は両方とも2次元のベクトル空間の表現である点において「同じ」だということである。

量子力学の1次元問題

さて、本日の講義では「量子力学へつながる様な古典力学の内容を見せてほしい」という要望が出たので、準備なしに話をする羽目になった。量子ドットの例をひいて1次元固有値問題を例示した時、ひとつの疑問が頭に浮かんで冷や汗が流れた。「あれ?井戸型ポテンシャルの解空間って2次元だっけ?違うよね....あれ?」という疑問である。

シュレディンガー方程式の特別な場合としてエネルギーが保存するとき、量子力学の基本方程式は2階の線形微分方程式の形を持つ固有値方程式となる。 \begin{equation} -\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2}\phi(x) + V(x)\phi(x) = E\phi(x) \end{equation}

簡単な場合として、自由な空間$V(x)=0$を考えると、解は \begin{equation} \phi(x) = C_1\exp(ikx) + C_2\exp(-ikx) \end{equation} になりそうに見えるが、実は無限次元となる(ヒルベルト空間だから...)。 ただし、$E=\hbar^2 k^2/2m$と書き換えた。

さて、この矛盾はどうやって解決するのであろうか.....。(つづく)

東大数学2024問題6 (part 12):数値計算に飽きてきたので解析的分析を少々

前回のあらすじ

ここしばらく数値計算ばかりやってきたので少々飽きてきた感じがある。そこで受験のときにやるような解析的な分析を久しぶりに少々やってみることにする。

今回もケース3、ケース4の場合、つまり二次関数$k(x)=x^2+ax+b$の部分が、素数$p\in \mathbb{P}$に対して、$k(\pm p)=\pm 1$になる場合である。つまり、\begin{align} g(p)= & pk(p)=p \cdots \text{ケース3} \\ g(-p)= & -pk(-p)=p \cdots \text{ケース4}\end{align}に相当する。

ケース3の場合

ケース3の場合というのは結局$k(p)=1$の場合を意味するので、\begin{equation}p^2+ap+b-1=0\end{equation}という2次方程式の解が素数になる条件を探してみよう、ということになる。2次方程式の解は下手すると複素数、下手しなくても多くの場合には実数となるから、素数どころか整数解を見つけることすら(普通は)難しいのは周知のことである。

$p$が整数解となるためには、判別式が平方数となるのが最初の必要条件である。すなわち適当な整数$S$を使って\begin{equation}D=a^2-4(b-1) \rightarrow S^2\end{equation}という形となる$(a,b)$を探し出すのが、整数解$p$を得るための条件である。

この式をどうやって「調理」したらよいのか試行錯誤を結構繰り返したのだが、結局は「なるべく特別な仮定を導入しない」のが近道だと悟った。

特別な仮定というのは、たとえば$a$と$b$がなんらかの関係で結ばれていたりとか、そういう仮定である。しかし、仮定を一つおくと、その仮定がたとえうまく行ったとしても、その仮定ではカバーできないケースがあるのかないのかを次のステージで考える羽目に陥り、精神が消耗するのである。これではアインシュタイン方程式の特別解のサーチと同じ水準の困難に囚われてしまう(笑)。

そこで今回は素直に\begin{equation}a^2-4(b-1)=S^2\end{equation}と置くことにした。ここに登場する文字はすべて整数であるから、割り算は可能な限り避けるという方針をおく。とはいえ、因数分解は許す(割り切れる割り算は特別扱いするということ)。ということで、次のように変形する。\begin{equation}(a-S)(a+S) = 4(b-1)\end{equation}

右辺が偶数であることに注意する。となると左辺は2つの因子の掛け算なので、(奇数X奇数)の組み合わせが除外されることになる。これは$a,S$がそれぞれ偶数と奇数(その反対も)の場合が除外されるということである。ということで、$(a,S)$が共に偶数、あるいは共に奇数の場合を考えることにしょう。

共に偶数の場合

$a=2\ell, S=2m$と置く。判別式が平方数となる条件の式は次のように書き直すことができる。 \begin{equation}(\ell-m)(\ell+m)=b-1\end{equation} なんとなくクレプシュゴルダン係数を求める公式によく似た雰囲気をもっている関係式である(まったく無関係であるが[笑])。

この値を利用するとケース3の解は\begin{equation}p_3=-\ell-m, -\ell+m\end{equation}であることが計算するとわかる(角運動量の合成みたいな結果であるが、もちろん無関係である)。2つの素数解を$p_3, p_3'$と書けば\begin{equation}\left(\begin{array}{c}\ell \\ m\end{array}\right) = \frac{1}{2}\left(\begin{array}{cc}-1& -1\\ 1 & -1\end{array}\right)\left(\begin{array}{c}p_3\\ p_3'\end{array}\right)\end{equation} つまり、$\ell$, $ m $が整数になるためには、$p_3,p_3'$が共に偶数か共に奇数でなくてはならない。しかしながら素数の中で偶数は2一つのみしかないので、前者の可能性はない。よって、後者の「$p_3,p_3'$両者共に奇数」の場合だけが生き残る。

たとえば、$p_3=5, p_3'=3$になるようにしたければ、$a=-8, b=16, S=2$を選ぶことになる。

この場合、ケース4が複素数解を与えることを一応確かめておこう。 $k(p_4)=p_4^2-8p_4+16 = -1$となるので、判別式は$D=4^2-17 = -1<0$となって予想通りである。

となると、残り2つの素数解はケース1とケース2によって与えられなければならない。すなわち \begin{equation} p_1=-8+16+1 = 9, \quad p_2 = -(-8)+16+1 = 25 \end{equation} と計算されるがどちらも素数ではないからダメである。

この具体例から予想できるのは、$a=2\ell, b=(\ell-m)(\ell+m)+1$の場合、$p_1,p_2$は因数分解された表式になってしまうだろう、ということである。実際に計算してみると予想が正しいことが確認できる。たとえば、 \begin{equation} p_1 = a+b+1 = 2\ell + (\ell - m)( \ell + m) + 1 = (\ell-m+1)(\ell+m+1) \end{equation} となるから素数にはなり得ないことがすぐに確認できる。 (それにしても、この計算結果はClebsh-Gordan係数の計算で見かける値によく似ている...)

同様に$p_2$も \begin{equation} p_2 = -a+b+1 = ( \ell - m - 1)( \ell + m -1) \end{equation} となって因数分解された形で表せることが確認でき、素数とはならないことがわかる。

また、$p_4$が実数解になってしまうことは、対応する判別式が平方数になっていないことを示せば十分である。 すなわち、 \begin{equation} D=( 2\ell ) ^2 - 4( \ell^2-m^2+2 )=4(m^2-2) \end{equation} となるが、これが平方数になるには整数$j$を用いて \begin{equation} m^2-2=j^2 \end{equation} と書けなくてはならない。この式を変形すると$(m-j)(m+j)=2$となるが、2は素数なので$1\cdot 2$あるいは$2\cdot 1$以外にはありえない。 とすると$m-j=1, m+j=2$あるいは$m-j=2,m+j=1$となるはずで、これを解くと、前者は$(m,j)=(3/2, 1/2)$, 後者は(3/2, -1/2)となる。つまり整数$m,j$が半整数になってしまい、満たすべき条件が破られる(なんだかフェルミオンのスピンみたいである)。ということで、ケース3が2つの素数解を与えるように$a,b$を決めると、ケース4は一つも整数解を与えることができなくなることが示されたのである。

ということで、この場合は最大で2つの素数解しか見つからないことが証明された。$\square$

共に奇数の場合

同じような考察を丁寧に繰り返せばいいはずである。今回はここで休憩としよう。この証明で何か面白いことが起きれば次回再開することにする。もし上の考察と似たような内容が繰り返されるようなら省略することにする。(つづく)

東大数学2024問題6 (part 11):細かい場合分の作業に突入....

前回のあらすじ

$g(x) = xk(x), k(x)=x^2+ax+b$が与えられており、$x\rightarrow n\in\mathbb{Z}$の場合に($\mathbb{Z}$は整数の集合)、$g(n)$が素数となるかどうか($g(n)\in\mathbb{P}?$)を調べる問題をずっとやっているが、前回は、$a,b\in\mathbb{Z}$を固定した場合に、 $k(p)=1$かつ$k(-p')=-1$を満たす$p,p'\in\mathbb{P}$を4つ見つけることはできないことを証明した。ということで、考察すべき残りの状況は以下の5つとなった。

  • (a) ケース3が2つの整数解を与え、ケース1とケース2が残りの2つの整数解を与えて4つとなる場合。
  • (b) ケース3が2つの整数解を与え、ケース4が一つの整数解、ケース1あるいはケース2が残りの整数解を与えて4つとなる場合。
  • (c) ケース3をケース4と言い換えた場合の、(a)の場合。
  • (d) ケース3をケース4と言い換えた場合の、(b)の場合。
  • (e) ケース1とケース2が1つずつの整数解を与え(合計2つ)、さらにケース3が一つ、ケース4が一つの解を与える場合。

本日は(a)と(b)の場合について調べてみたい。

(a)の場合とは?

ケース3というのは、$x=p\in\mathbb{P}$, かつ$k(p)=1$となる場合のことである。ただし、$\mathbb{P}$は素数の集合を表す。したがって、$g(p) = p$となるから与えられた条件を満たすというわけである。

前に数値的に探した時は、$(a,b)=(-5,7)$という具体例が一つ見つかった。この場合、$k(x)=x^2-5x+7$であるから、$k(2)=4-10+7=1$、および$k(3)=9-15+7=1$となり、$g(2)=2, g(3)=3$となって与えられた条件を満たす。

一方でケース4というのは、$x=-p'$(ただし$p'\in\mathbb{P}$)の場合に、$k(-p')=-1$となる場合のことである。この場合は、$g(-p')=(-p')(-1)=p'$となって与えられた条件を満たすというわけであるが、ケース3とケース4を同時に実現するような$(a,b)$は存在しないことを前回証明したのである。

問題を解く観点からすると蛇足に近い形になってしまうが、ケース4についても条件を満たす2つの異なる素数$p,p'$がみつかるかやってみよう。ケース4を満たすための「必要条件」、$k(-p')=-1$が$p'$についての2次方程式となり、異なる2つの正の実数解を与える条件、は \begin{equation} b < \frac{a^2}{4}-1, \quad a > 0, \quad b>-1 \end{equation} であった。下の図で紫色の影で塗られているのが該当する領域である(ちなみに緑色の影で塗られているのがケース3において2つの正の実数解を持てる条件に対応する領域)。

この図で確認できる格子点を探し、上の図に重ねてみる。 境界上の格子点は条件からは外さなければならない(重解となるため、解の個数が不足してしまう)が、一応計算だけはやっておくことにする。

前回作ったpythonのプログラム(discriminant.py)を再利用することができる。

まずは境界上にある格子点から計算してみる。データの見方は

通し番号, a, b, 判別式, 平方数かどうか、整数解1、整数解2

である。今考えているのはケース4なので、整数解はすべて負の整数(素数にマイナスをかけたもの)になってないといけない。

   1  0 -1 0 True 0.0 0.0
     2  1 -1 1 True 0.0 -1.0
     3  2 -1 4 True 0.0 -2.0
     4  2 0 0 True -1.0 -1.0
     5  3 -1 9 True 0.0 -3.0
     6  4 -1 16 True 0.0 -4.0
     7  4 3 0 True -2.0 -2.0
     8  5 -1 25 True 0.0 -5.0
     9  Programme completed...

整数解が出ていたとしても、ケース4の場合は(絶対値が)素数でないといけないから、0.0および1.0になってしまったものを除外しないといけない。また、重解のものも外れる。ということで、予想通り境界上の格子点に条件を満たすものは存在していないことが確認できた。

次は、ちゃんと境界内部に存在する格子点(のいくつか)を確認してみよう。

     1  3 1 1 True -1.0 -2.0
     2  4 2 4 True -1.0 -3.0
     3  5 3 9 True -1.0 -4.0
     4  5 5 1 True -2.0 -3.0
     5  Programme completed..

すでに説明したおおり、整数解として-1.0が含まれている場合は除外する。したがって、4行目の$(a,b)=(5,5)$が条件に該当するものであることがわかる。検算してみよう。

\begin{equation} k(-p)=p^2-5p+5 \end{equation} に対して、$k(-2)=4-10+5=-1$, また$k(-3) =9-15+5=-1$となって条件が満たされていることが確認できた。

もちろん、この解はケース3の領域に含まれていないからだめである。といっても、実数解が2つ出るところまでは大丈夫であるが、二つの正の解が出てこないという点で失敗する。確かめてみよう。

$k(p)=p^2+5p+5=1$となる$p$が素数になるかどうかである。$p$についての方程式を解くと、 \begin{equation} p = \frac{-5\pm\sqrt{25-16}}{2} = \frac{-5\pm 3}{2} = -4, -1 < 0 \end{equation} となってダメである(といっても整数解が出た部分までは「すごい」けれど、素数でもないし、正数でもないからダメはダメである)。

ケース1の場合

ケース1とは、$x\rightarrow n=1$となり、$k(1)=1+a+b$が素数になる場合である。素数になるかどうかの条件式を与えるのは面倒なので、まずは素数の必要条件である「正の数」という条件を課して、領域を狭めてみたい。$k(1)>0$であるから、 \begin{equation} b > -a -1 \end{equation} という不等式が条件に対応する。

ケース2の場合

ケース2は$x\rightarrow n=-1$となり、$k(-1) = 1-a+b$が素数に負符号をかけた値となる場合、つまり$k(-1)=-p$、ただし$p\in\mathbb{P}$の場合である。この場合も「必要条件」として$k(-1)<0$を課すことができるから、 \begin{equation} b < a-1 \end{equation} という不等式の形の条件を得ることができる。

ケース1とケース2が同時に成立すること

ケース4、あるいはケース3で見つかった$(a,b)$に対し、$k(1)$と$k(-1)$が同時に(異なる)素数となれば4つの整数解が見つかってしまい、証明は破綻する。まずは$k(1)$と$k(-1)$が同時に正数となる領域を調べてみよう。これは共通の切片$b=-1$をもつ直線グラフ(傾きは$\pm 1$)の「右側」の領域となる。正確な場所は下図の黄色で塗られた領域である。

黄色の領域は緑の領域とは絶対に共通領域を持たないことがわかる。つまり、ケース3で2つの解が見つかりつつ、ケース1とケース2で残りの2つの解が提供されることはあり得ないことが証明されたことになる。

つまり(a)の場合、4つの整数解が見つかることはないのである。

(c)の場合

(c)の場合、というのは「ケース3」を「ケース4」と言い換えた場合の(a)の場合である。この可能性はまだ否定されていない。つまり、ケース4で2つの解が見つかり、かつケース1とケース2で残りの二つの解が補充される場合である。この状況をわかりやすく領域を塗り直すと次のようになる。 紫と黄色に塗られた領域の和がそれである。

紫色の領域

この領域は閉じた領域であり、目で見て数えてしまうことが可能で、$(a,b)=(3,0), (3,1), (4,0),(4,1),(4,2)$であるが、これらの点はすでに条件を満たさないことを計算して確認済みである(境界上の点も不適であることをすでに確かめた)。つまり、可能性があるとするならば、黄色の領域に限られる。

黄色の領域

黄色の領域も、$a=5$の格子点、つまり$(a,b)=(a,b)$、ただし$b=0,1,2,3,4$、については条件を満たさないことを確認済みである($b=5$の場合のみが条件をかろうじて満たしたが、黄色の領域の外側になってしまった)。

したがって、$a\ge 6$の格子点で、$0\le b\le a-1$を満たすものだけを調べればよい。

東大数学2024問題6 (part 10):ケース3とケース4が同時に成立して4つの整数解が見つかる場合

前回のあらすじ

前回は、ケース3.の場合について詳しくみてみた。(a,b)=(-5,7)が候補となったが、$f(2)=2, f(3)=3$だけが題意を満たす場合であることがわかり、4つの素数を見つけるどころか、3つの素数が与えられた式を満たす状況にはなっていないことが確認できた。

ただ、具体例が一つ見つかったことで、何を証明してよいかぼんやりと見えてきた。今回は、ケース3.が2つの素数を生み出す場合、ケース4とは相入れないことを示したい。つまり、ケース3が2つの整数、ケース4が2つの整数をそれぞれ解として与えることで、全体として4つの整数が見つかるということは絶対にない、ことを示したいと思う。

ケース4の状況

この場合は、素数$p$に対し,$x=-p$によって$g(-p)$が素数になる場合に相当する。このとき、$g(-p)=(-p)k(-p) =(-p)(-1)=p$が成り立つ。したがって、条件式は \begin{equation} k(-p) = -1 \rightarrow p^2 -ap + b = -1 \rightarrow p^2-ap + b+1 =0 \end{equation} 解の公式により、 \begin{equation} p=\frac{a\pm\sqrt{a^2-4(b+1)}}{2} \end{equation}

したがって、まずは判別式が正となる条件が得られる。それは \begin{equation} a^2-4(b+1) > 0 \rightarrow b < \frac{a^2}{4}-1 \end{equation} である。

まずはこの条件をケース3が2つの整数を与える条件と重ねてみることにする。 色が濃くなっている場所が該当領域である。前回の考察で(a,b)=(-5,7)が候補となったが、ケース4が複素数になってしまったことを思い出そう。上のグラフでは今回求めた放物線の上の領域に(-5,7)が位置しており、複素数になってしまった理由がはっきりわかる。

上の領域をわかりやすく表示すると、次のようになる。

次に2つの解が両方ともに正となる条件を足す。 \begin{equation} -a < \sqrt{a^2-4(b+1)} < a \end{equation} この条件は$a>0$の時だけ成立する。そのとき、左側の不等式は自明な関係式となるので、右側のみを考慮すると \begin{equation} b > -1 \end{equation} を得る。

すでに$a>0$の条件が見つかった段階で、上のグラフとの共通領域は消滅してしまっている。つまり、ケース3とケース4を組み合わせて、4つの整数解を与えるような(a,b)が存在しないことが証明できた。

考察すべき、残りの状況

となると、考察すべき状況として残ったのは次のような場合である。

  • (a) ケース3が2つの整数解を与え、ケース1とケース2が残りの2つの整数解を与えて4つとなる場合。
  • (b) ケース3が2つの整数解を与え、ケース4が一つの整数解、ケース1あるいはケース2が残りの整数解を与えて4つとなる場合。
  • (c) ケース3をケース4と言い換えた場合の、(a)の場合。
  • (d) ケース3をケース4と言い換えた場合の、(b)の場合。
  • (e) ケース1とケース2が1つずつの整数解を与え(合計2つ)、さらにケース3が一つ、ケース4が一つの解を与える場合。

以上である。