複天一流:どんな手を使ってでも問題解決を図るブログ

宮本武蔵の五輪書の教えに従い、どんな手を使ってでも問題解決を図るブログです(特に、科学、数学、工学の問題についてですが)

Unistellarで最初の超新星(後追い)観測

Unistellarの望遠鏡の価値は、1000万光年を超える遠方銀河を気軽に観測できる点にある。目指す銀河を容易に見つけ出し、それなりの画質で観測することが可能だ。超新星爆発や新星爆発のルーティン観測にはもってこいだ。欠点は、エンハンストビジョンでも、ある程度まともな画質にするには15分以上の露出時間がかかってしまうことである。したがって、一晩で観測できる銀河の数は片手、あるいは両手で数える程度が(常識的には)精一杯である。無論、徹夜すればそれなりの数は観測できるだろうが、それでも50個を超すのは無理だろう。

ということで、いくつかの銀河を選び、できる限り頻繁に観測をしている。しかし、銀河ひとつが百年に一度の割合で超新星を発生させるという「平均値」に従っているそうで、それが本当なら発見できるのは何十年も先のことになってしまう....。とはいえ、幸運が訪れることもあるだろうから、コツコツやっている。

日本には有名な超新星ハンターは何人もいて、その中でも飛び抜けているのが山形の板垣さんだろう。直近では11月14日にNGC2146銀河でType-IIの超新星を発見している。その詳細はアストロアーツが報告している。

www.astroarts.co.jp

一年で10個近くの超新星や新星を発見しているということは、毎晩1000個近くの銀河を見続けていることになる!Unistellarでは到底追いつけない水準だ。驚異的であり、尊敬しかない。

しかし、こういうプロのやり方を真似し、その技を盗むのは、職人のみならず科学でも重要なアプローチだ。以前なら、このような「後追い観測」ですらとても大変だった。知らない銀河を見つけるのが至難の技であるし、場所があっていたとしても赤道儀を上手にセットしないとマトモな観測すらできやしない。昨年、板垣さんが見つけたM101のSN2023ixfを後追い観測したときも、本当に大変だった。梅雨時だったので、極軸合わせをやっているうちに雲がかかったり、蒸し暑い中蚊に刺されたりと、とにかく一苦労であった。

Unistellar eQuinoxを購入してから最初の後追い観測になったのが、上述のNGC2146近傍のSN2024abflである。昨年のM101と違って、通常の調整作業を5分程度で終わらせたら、iPadでNGC2146をデータベース検索をしてクリックするだけである。

今回の露出は15分とした。さすがにNGC2146は4200万光年の遠方銀河である。M101と同じ程度の距離であり、これまでだったら「自己最高記録」に相当するような遠方銀河である。多少は我慢しないといけない。待っている間にどんどん画質が上がってくる。さて、超新星は映っているだろうか?

NGC2146のSN2024abfl。

映っていた!超新星は一年ぐらいは光っているはずだから、ひと月毎に観測し続ければ、減光の様子も記録できるだろう。自分で発見できなくても、たくさんの可能性をもたらしてくれるUnistellar eQuinox2は素晴らしい望遠鏡だと感じている。

それにしても、こんな微かな星の点を「新しい星」と見出せる眼力には、ほとほと恐れ入る。今のところは降参だが、こういうトレーニングを繰り返していけば、いずれは自分にもチャンスは巡ってくるだろう。

Unistellar eQuinox2ではくちょう座の星雲を観測する

「天リフ編集長」のブログ記事に載っていた他の天体

前の記事では、「天リフ編集長」が執筆したUnistellarの使用レポートブログで紹介されていた天体画像を参考に、同じ天体をより長い露出時間で撮影してみたらどうなるか調べてみた。多くの場合で、より明るく、より大きく天体が写り、より綺麗で見栄えの良い写真が撮れることがわかった(玄人たちには「望遠鏡の接眼レンズを肉眼で直接覗いたときのような淡い感じがいい」というかもしれないが、素人目には発色がよく、明るい写真の方が嬉しいのである)。

編集長の記事では天体がたくさん紹介されていたので、そのすべての画像について比較することができなかった。しかしあれから私自身の観測に進展があり、比較できるものがいくつか手に入ったので、今回はそれをみてみたい。それは「散光星雲」と編集長のブログにあった天体のうち、はくちょう座の網状星雲(ヴェール星雲)である。東ヴェール星雲と西ヴェール星雲と2つあるようである。その両方を20分の露出で観測してみた。ちなみに編集長は9-10分の露出時間だったようである。はたして、この2倍の差がどういう形で現れるだろうか?

はくちょう座のヴェール星雲

はくちょう座のヴェール星雲についてはwikipediaに詳しいので、詳細はそちらに譲る。ただ、一つだけここで確認しておくと、ヴェール星雲とは「はくちょう座ループ」と呼ばれる、超新星爆発巨大な残骸の一部分であり、その「右」半分の一部と「左」半分の一部が西ヴェール星雲と東ヴェール星雲に対応している。超新星爆発の後、燃え残った星のガスが宇宙空間に飛び散っていくわけだが、それが桁外れに遠くまで膨れ上がっているのが、はくちょう座ループの正体である。

ではさっそく結果を見てみよう。下の写真のようになった。

はくちょう座の東ヴェール星雲と西ヴェール星雲

なんだか立体的に見えるのだが、錯覚だろうか?赤色がこんなに綺麗に出るとは思わなかったので、本当に驚いた。

はくちょう座の輝線/発光星雲IC5146に挑戦

はくちょう座星図をみると、あちこちに星雲が散りばめられていることがわかる。ヴェール星雲は白鳥の右の翼の先あたりにあるが、今度は「尾」つまりデネブの後ろにある「北アメリカ星雲」と行きたいところだが、これは何度やってもHαの赤い色が出ないので今回は諦めて、その後ろにある輝線/発光星雲と呼ばれるIC5146に挑戦してみた。

これは星が誕生している星間分子雲の塊のようである。すでにその中心部では星が誕生しており、その核融合の火に照らされて星間雲が発光しているというわけである。

それでは観測結果を見てみよう。下の写真のようになった。

IC5146, まゆ星雲

こちらも赤の発色がちゃんと記録されている(どうして北アメリカ星雲の赤い色は映らないのであろうか?)。「まゆ星雲」というあだ名があるそうだが、「薔薇星雲」と名付けてもいいほどの美しさである(噂では本当のバラ星雲は撮影できないらしい)。どうして映る赤と映らない赤があるのであろうか?Unistellarのちょっとした謎である。ぜひ解明したいと思うが、いまはまったく五里霧中である。

Unistellar eQuinox2の観測終了方法と観測後にやること

Unistellar eQuinox2での観測は続いている

このところ天気の良い日は、夕暮れの時間帯から夜が更けるまで、だいたい3、4時間ほど天体観測をやっている。 といっても、昔のように望遠鏡に張り付いている必要はない。適宜、室内に戻って雑用をしたり、食事を摂ったり、暖房にあたったりと、スマート望遠鏡を使った観測は実に快適である。唯一大変なのは、望遠鏡が観測対象に方向を変える時の1、2分の間だけである。WiFiのレンジが短いので、さすがに室内から制御することはできず、屋外に出て操作が終わるまで待っていなくてはならない。ここが改善された本当に素晴らしい「準自動」天体観測所の完成である。

とはいえ、問題が全くないわけではない。たとえば、これだけ観測を連日続けているとバッテリーは無くなるし、「ストーレージ」と呼ばれる望遠鏡のメモリも乏しくなってくる。また、大量の観測写真データの処理も必要だ。

今回は観測終了後にやらねばならぬことについてのメモ書きであるが、この部分がガイドブックにはほとんど書かれていないのである。ほとほと困って検索すると、Unistellarのweb記事に「なんとなく説明らしきもの」がちょこちょこと出てはくるのだが、系統だっておらず、非常にわかりにくい。ということで、困った内容を、やるべき手順に沿ってまとめてみたいと思う。

クイックガイドの「わかりにくい」説明

観測の終了方法

単に電源ボタンを押す、というのは避けた方が良いらしい。もちろん、それも可能である。しかし、さまざまな方向を向いた望遠鏡は、赤道儀部品が整列しておらず、保管用の箱にしまうためには、望遠鏡を真っ直ぐな状態に戻す必要がある。それを実行してくれるのが「終了する」ボタンと「電源を切る」ボタンの2種である。これはアプリの設定セクションから「My望遠鏡」セクションに移動すると登場する。

Unistellarアプリの「My望遠鏡」画面

三脚に装着した状態で、望遠鏡を真っ直ぐな状態に整えてから電源を切るのが「終了する」ボタンである。通常の観測の終わりではこちらを選ぶ。望遠鏡を(点検や掃除のために)床に置いた状態にして、この「終了ボタン」を押してしまうと、望遠鏡の赤道儀部分が勝手に動き出してしまうので、破損したり色々嫌なことが起きるかもしれないから気をつけよう。

一方で、「電源を切る」ボタンは、単に電源を切るだけである。望遠鏡を真っ直ぐな状態に戻すことはしない。検査点検など、望遠鏡を三脚から外し横たえた状態で電源を入れたり切ったりする必要があるときはこちらのボタンを選んでもいいだろう。保管箱に入れたいと思っているのに、もしこのボタンを押してしまうと、望遠鏡の向きが折れ曲がったまま電源が落ちてしまい、箱にしまえなくなるだろう。再度電源を入れて「終了する」ボタンをやり直すことになる。しかし、この機能はあまり利用しないと思う実際、私は使ったことがない)。直接、指で望遠鏡の電源ボタンを長押ししてしまえば良いからである。

充電の仕方

観測を始めた最初の頃は、お試し観測だったので、せいぜい30分くらいしか望遠鏡を稼働しなかった。しかし、品質の高い観測写真を撮ろうとおもったら、一つの銀河につき20分とか観測時間がかかるようになり、それを6つもやったら2時間である。こんな調子で観測をしていれば、一晩で充電が尽きかけてしまうようになる。説明書には「保管するにはバッテリーレベルを40ー60%以上にしておくべし」と書いてあるし、「20%以下(電池切れ)で使用するな」ともある。これに違反しても、すぐに壊れたりはしないが、バッテリーの寿命が短くなって、修理に送り出すことになるそうである(自分では交換できないらしい)。

このところ、観測が終了する頃になるとバッテリーのレベルは40%程度になっている。放置するのは問題らしいので、観測後には毎晩充電することにしている。40%程度まで減少した場合、リチャージまでの時間は10時間程度、つまり丸々一晩となる。下手すると翌朝になっても充電が100%に復活しておらず、朝食を食べ終わった後あたりでようやく終わるときもある。

充電中は、電源ボタンのLEDランプが青色となり、充電レベルに応じて点滅する。その詳細はネット記事に説明がある。重要な情報なので参考にした方がいいと思うが、問題は点滅が早すぎて、4回だったか5回だったか、すぐには判定できない点である。もう少しゆっくり点滅させるか、色の違いで充電レベルを識別する方法に変更してもらいたいと思う。30分ほどじっと眺めていても、なかなか点滅の回数が減っていかず、最初は絶望的な気分になるだろうが、そのうちに慣れてしまい、電源プラグを差し込んだらさっさと眠ってしまうようになるだろう(笑)。翌日、点滅回数がまだ2回程度のままで、がっくりすることもあるだろうが、忘れた頃に戻ってくると、ぴたっと点滅が終わっていて一安心するはずである。

充電に関しては、もう一つ厄介ごとがある。電源プラグを差し込んだだけでは、充電が始まらないという問題(バグ?)である。「充電中は青いランプで点滅する」と説明にはある。もちろん慣れないうちは「点滅が止まらない」ことに絶望を感じることが多いわけであるが、「点滅すら始まらない」とその絶望はもっと深いものになる。いろいろ試しているうちに、点滅が始まって一安心、という人は多いと思う。しかし、次の日に、また同じ問題が発生して途方に暮れてしまった人もいるだろう。これに関しても、上のネット記事を参照するとよい(ガイドブックに堂々と書いておらず、ネット記事でこっそりお知らせするということは、これはバグだと思う)。

手順は次のとおりである。まず望遠鏡の電源を入れる(単に充電するだけなので、三脚に差し込む必要はない)。電源ボタンが「赤く」なったら(「青い」設定の人もいるだろうから、その場合は「青く」なったら)、電源コードを望遠鏡に差し込み通電させる。そして、電源を切るのである(アプリから切る場合は「電源を切る」ボタンを、指で直接電源を切る場合はスイッチを長押し)。電源が切れた途端に、電源のランプが青くなり、そして点滅が始まる(最初は5回だと思うが、早すぎて数えられないと思う)。これで充電は開始されたことになり、一安心である。

「ストレージ」が満杯になる問題

一晩に6つも7つも天体観測していると、eQuinox2の「ストレージ」と呼ばれる64GバイトのSDカードが2、3日に満杯になってしまう。これに「焦り」と「恐怖」を感じている人も結構多いと思う。

最初に考えるのは、「SDカードの交換」あるいは「増設」であるが、Unistellarはこれを「禁止」しているのである。なにがなんでもSDカードの内容を利用客から吸い上げ、自分の手元にもちたいらしい。この態度に怒りを感じる利用者は世界的にも結構いるようで、あちことのフォーラムで苦情が出ている。しかし、Unistellarはこの点について変更も改善もしていない。したがって、言われたとおりに処理しないとストレージは満杯になってしまう。

さて、Unistellarはどうしろと言っているのかというと、「溜まったデータはアップロードしろ」という。つまり、Unistellarに観測データを全て譲渡せよというのである。満杯となったストレージをなんとかするためには、アップロードしかないというなら、いやいやそうするのが人情というものであろう。私も結局ストレージが95%を超えたところで、軍門に降ったのである。

ところがである!このアップロードに要する時間が、桁外れに長かったのである。一晩中送りっぱなしにしてみたが、95%だったストレージが80%程度に減っただけであった。落胆と恐怖である。いったいいつになったら終わるのだろうか?という底なしの不安である。そしてそのまま1日が過ぎ、夕方となって天体観測の時間になったが、それでも75%を下回らない。

次の不安は、「アップロードを途中でやめていいのだろうか? そして、アップロードが終わっていないのに、次の観測ができるのであろうか?」であった。前者に関しては、検索しても結局答えは得られなかった。後者に関しては次のネット文書が見つかった:「データの保存と記憶:アップロードについて」 この文書を読んで衝撃だったのは次の点である。

「ストレージが100%になっても、望遠鏡の観測は継続して行える」

観測はできても写真が撮れず、保存もできないのではないか?

「観測写真は望遠鏡の中のSDカードには保存していないからご安心を。写真のデータはすぐにiPhoneiPadに転送されるため、大量の画像データでお困りというならば、それはiPhoneiPadの記憶容量を増やすことで解決できます。望遠鏡のSDカードの容量とは無関係です。」

「なんだと?!」ってな具合である。

じゃあ、私はなんのために必死になって「ストレージ」の中身とやらをUnistellarに一生懸命アップロードしているのであろうか?

「望遠鏡の性能を改善するためにお客様の情報が必要なんです」

という答えである。なんか嫌ーな感じではあるが、この決まりが嫌ならアップロードなんか無視して観測し続ければよいのである。しかし、ひとつここで問題が発生した。

「もしUnistellarのサイエンスチームに参加して、世界規模の天体観測ネットワークに関与したいなら、かならずアップロードはしてください。ストレージの内容が0%に近い状態にしておかないと、この共同プロジェクトには参加できないからです。」

とのことであった。そういえば、Unistellarの望遠鏡を購入することに決めた「隠れた理由」は、Unistellarが、DARTプロジェクトの観測に成功し、その結果をユーザーとの共著の形で学術論文にして発表したことであった。DARTプロジェクトとは、NASAを中心とした「惑星防御」の最初の試みであり、恐竜を絶滅においやったような巨大隕石が地球に近づいてきた時、人工衛星をぶつけて、地球と隕石の衝突を回避するのが目的である。小惑星NASAの「神風衛星」がぶつかり爆発が起きた瞬間をUnistellar望遠鏡ネットワークの一つが捉えていたのだった。その様子を捉えた動画はWikipediaUnistellarのHPから閲覧できる。

www.unistellar.com

「なるほど、この共同プロジェクトに参加するための「踏み絵」がアップロードなんだな」と理解した。それならば仕方ない、という意味である。ということで、アップロードしなくてもeQuinox2を使い続けることはできるが、Unistellarネットワークにいずれ参加することを目標に頑張っているのも確かなので、アップロードはやることにした。

しかし、アップロードにはものすごく時間がかかるので、溜め込まないうちに小まめにアップロードした方がいいだろう。たぶん、その晩の観測が終わったら、電源に繋いでアップロードをするのがいい。なぜかはわからないし、説明はどこにも無いのだが、やってみたらアップロードしている最中でも充電してくれたからだ。

もうひとつ、一か八かでやってみたのが、アップロード中に電源を落とすという試みである。ストレージが95%を超えてしまうと、そのアップロードには2、3日もの時間が要される場合がある(たぶん私のような遅いWiFi接続の場合)。この期間に夜は2回くるので、アップロードを途中で中断しないと次の観測ができないのだ。おそるおそる電源スイッチを長押しして電源を切り、望遠鏡をリブートしてみたら、見事にアップロードは中断されていたのであった。天体観測もいつも通り実施できた。ただし、78%程度にまで減っていたストレージは、この晩の観測の後、再び95%を突破していたのであった....。そして、その晩は、アップロードしながら充電を行ったのである。次の晩は天候がわるかったため、そのままアップロードと充電をやり続けた。そして夜になったところで、確認するとストレージは65%まで減少し、やっと電源の緑ランプの点滅は3回に減少したのであった(この程度の点滅なら数えることができた)。たぶん、あと2晩くらいで完了すると思われる。アップロードはとにかく時間がかかって大変である。

観測写真の保存

さて、ストレージの容量と観測写真の容量自体は直接は関係していないことがわかった。ストレージが満杯でも、観測写真は撮りまくることができるという(まだ実際に試してみたわけではないが)。95%を超えたところまではチャレンジしてみたが、さすがに怖くなって先日はそこで観測をやめてしまった。今度は100%になっても撮影が継続できるか試してみたいものだが、アップロードにこれだけ時間がかかることがわかったので、もうそこまで溜め込まないようにしようと(実は)思っている。ということで、この実験は当分先になりそうである。

とはいえ、iPadの中に観測写真が溜まり続けているのは事実である。誰もが「いずれは画像データをPCやmacに転送したい」と思うのは当然だろう。そこで便利なのがairdropの機能であるが、一枚一枚クリックして転送するのはちょっと面倒だ。そんなときは、Lightningのケーブルを使って直接iPadmacbookを繋いでしまうと便利だ。写真.appやiPhotoを起動すると、一括転送してくれる。

つい最近、望遠鏡のストレージに蓄えられている「生データ」を直接PCやmacbookにダウンロードできるように、Unistellarアプリが改良された、という話を聞いた。ちなみに「生データ」というのは、おそらく訳し過ぎだと思う。元は「Raw Data」であり、光素子CMOSからの直接信号を加工せずに保存したデータ画像ということだと思う。これは「Raw画像」と書くのがいいんじゃないかと思う。まだ試していないのだが、これを使って観測写真を望遠鏡から直接ダウンロードすると、「アップロード」の量が減って転送時間が劇的に減るそうである。となると「なんだ、やっぱりストレージには観測写真が保存されていたんじゃないか」という感想を持つ。やっぱり100%は越さない方がいいんじゃないかと思い直したところである。

付録:アップロードのランプ信号

ストレージの中に溜め込まれたデータを(Unistellarのサーバーに)アップロードしている最中は、電源のランプが緑色になって点滅すると説明書には書いてある。たしかに点滅が5回とか4回のときはそのとおりだった。LEDランプの色は緑のままであった。しかし、ストレージが60%を切るまで頑張り点滅が3回に減ったところで、点滅の後、赤く光り出したのである。つまり、緑の点滅、しばらく赤、再び緑の点滅、そしてまたしばらく赤、という感じで周期的に色が変わる。途中で色が赤くなるとはどこにも書いてないので、壊れたか?とかなり焦った。しかし、どうやら気にしなくてよいらしい(脱力)。バグなのか、それとも設定が説明書と違うのか、いずれにせよ、Unistellarの開発者のこの緩い感じをなんとか改善してもらいたいものである(怒)。最後に心の声:「いろいろ焦るよ、ほんとに!」と叫びたい気分である。

Unistellar eQuinox2で遠方銀河を観測する

最初の能書き

ネット検索でひっかかるUnistellar eVscope/eQuinoxのレポート記事で紹介されている天体写真が「今ひとつパッとしない」件について、以前のブログ記事で取り上げた。

そこで見えてきたのが、セミプロ級の天体観測愛好家はこのスマート望遠鏡をあまり購入していないらしい、という点である。「手軽に星々の美しさが楽しめる」というのは、たしかにどちらかといえば「超アマチュア」向けのキャッチコピーだろう。そのせいか、パッと目立つ天体、特に超新星残骸の観測記事が多かった。前回の記事でも取り上げたのも、有名な「こぎつね座のM27」という惑星状星雲であった。素人観測家たちは「望遠鏡を覗いた瞬間にパッと美しい宇宙の光景が広がる」ことを期待している。したがって、露出時間も数分程度までしか辛抱できないようで、私もその一人だからその事情はすごく納得できる。

しかし、Unistellarのスマート望遠鏡といっても、2、3分でバラ星雲やダンベル星雲が見事な発色で浮かび上がるほどの目を見張るような性能を持っているわけではない。口径だって14センチちょっとしかないわけで、どちらかといえば「素人向け望遠鏡」の性能である。ちなみに、Vixenの最安反射望遠鏡ポルタII-R130Sfでも口径は13センチある。 www.vixen-m.co.jp

今ネットで引っかかる記事の写真があまり綺麗に見えないのは、このような事情を汲んだライターが執筆しているからなのかもしれない。つまり、素人向けの記事が多いのであろう。Unistellar望遠鏡のギリギリの性能を引き出してやろう、という記事はまだあまりみかけない。

かく申す私もeVscopeが2020年末に発売されてから数年間は、ネットでのレポート記事に掲載されている天体写真がパッとせず、(望遠鏡自体が高額なこともあって)なかなか購入意欲が湧かなかったのは事実である。そんな私が今回入手に踏み切ったのは、eQuinox2という製品が昨年(2023)発売されたからである。しかしそれは、単にeVscopeと比較して「相対的に安い」だけにもかかわらず、「安いよこれ!」と誤った判断をしてしまったからである。

しかし、いろいろやってみて、現在は「この望遠鏡は使いこなせば、なかなかの性能がある」という理解に到達した次第である。ネットに出回っている「Unistellarで観測した、品質の低い写真」のイメージをできる限り払拭すべく、性能実証観測を始めることにしたのである。

さて、これまでに彗星、超新星爆発残骸と観測してきたが、今回は遠方の銀河を観測してみた結果を報告する。

セミプロ級の天体観測愛好家のレポート記事

セミプロ級の腕前をもつ天体観測の愛好家であり、その趣味を本職にしてしまった方(以下「天リフ編集長」と書く)がeVscopeの性能を確認しているブログ記事を見つけることができた。確かにこれまで見てきた「ライター」によるお試し記事の観測写真に比べれば、格段の差がある。が、しかし、そこに掲載された写真を見ても「この望遠鏡はすごい」という感想には到達できなかった。むしろ、この方は「肉眼で望遠鏡の接眼レンズを覗いた時のように、あまり派手な画像にならないのが良い」とすら書いている。他のネット記事でも、Unistellarを観望会で利用することに興味を持つ人が多くいる一方で、本気の観測写真を撮るための望遠鏡としてはあまり興味を持っていないのでは?という印象をもった。

しかし、天体写真の品質を追求する多くの天体観測家たちは、撮影に長時間露出をかけ、画像データを細部まで編集しまくって「美しい画像」を生み出している。そして、素人の私たちは、その美しい天体画像を見て「宇宙はきれいだな」と感じるわけである。ハッブル宇宙望遠鏡の画像だって、リアルタイムにあんな映像が見えているわけではないはずで、相当な「画像処理」が施されてこそ、あれだけの美しい写真が出てくるはずである。そこで、今回は天リフ編集長のブログ記事で観測した銀河を私なりに「再観測」し、もう少し「綺麗な」画像がUnistellar望遠鏡でも撮れるのかどうかチャレンジしてみたい。

最初の2枚

まずは、NGC891(アンドロメダ座、2700万光年)とNGC253(ちょうこくしつ座、1100万光年)の2つである。前者は「真横」、後者は「斜め横」から銀河を見ているようなアングルで映るため迫力ある写真が撮れる。天リフ編集長のブログ記事で紹介している写真へのリンクはこちらである。先にも書いたが、この方の撮影はなかなか見事である。ただ、露出時間が5分未満と「ちょっと短い」感じがする。どうせなら10分を超える露出時間で撮影してみたらどうだろうか、というのが私からの提案である。ということで、やってみるとこうなった。

(左)NGC253, 21分(右)NGC891, 10分

あまり差がない...が、さすがに露出時間が長い私の写真のほうが銀河がより明るく、そしてより大きく写っている。一方で、私の写真の方が背景の星の数が少ない。これは大気の澄み具合があまりよくないせいだろう。つまり、先のブログ記事の方が撮影したのはとても空気が綺麗な場所だったのであろう。あと5から10分だけ頑張って露出時間を伸ばしていれば、私の写真なんかよりも圧倒的な写真が撮れたはずである。残念である。

次の2枚

次の2枚は、「Stephanの五つ子」と呼ばれる3億光年も先の超遠方銀河と、超新星爆発が通常の銀河の10倍も高いと言われるNGC6946渦巻銀河(2500万光年)である。 天リフ編集長のブログ記事で紹介している写真へのリンクはこちら。この2枚に関しては、天リフ編集長のブログ記事の写真の方はとても暗い。理由は簡単で、超遠方にもかかわらず、露出時間が6分および11分と「短い」からである。また、NGC6946の方がStephanの五つ子よりも地球に圧倒的に近いのに、露出時間が逆転しているのも理解に苦しむ。せめて、反対にすべきだったのではないか?

ということで、この問題を解決した状態で私も同じ銀河をチャレンジしてみた。

Stephan's Quintet (22min)とNGC6946(12min)

さすがに、明るく写っている分だけ私の写真の方が多少はよく見えるだろう。それなりに露出時間をかけたので当然といえば当然であるが、やはり天体写真を楽しむためにはある程度の辛抱は必要だと思うのである。

ただし、左の写真(Stephanの五つ子)は小さすぎて、私の写真でも何を写しているのかよくわからないかもしれない。この天体は3億光年弱という(素人にとっては)桁外れの距離にあるから、暗く、小さく見えてしまうのは当然なのである。NASAの圧倒的な技術の助けを借りれば何を撮影したのか検証できる。写真の円の中心から少し右上にボヤけた天体があるが、それが「五つ子」である。何が写っているか理解してから、私の写真を見れば「それなりに頑張っているじゃないか」という感想を言ってもらえるかもしれない(と希望する...)。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/90/Stephan%27s_Quintet_Hubble_2009.full.jpg/431px-Stephan%27s_Quintet_Hubble_2009.full.jpg

(上の写真はNASAハッブル宇宙望遠鏡や高性能の地上望遠鏡のデータを組み合わせて「仕上げた」NASA公開の写真)

一方、右側の写真にあるNGC6946については、だいたい同じような露出時間で撮影したにもかかわらず、(天リフ編集長の写真とは)かなり印象が異なる写真となっている。編集長は「この銀河は淡く見える」と書いているが、私の写真だとくっきり写っている。この差異の理由ははっきりしないが、この天体はケフェウス座の中でもデネブ寄りにあり、私が撮影したこの季節だと頭の真上にある感じとなる。雲の重なりが少なくなり、条件がよかったのかもしれない。

おまけ:惑星状星雲

天リフ編集長が紹介した銀河の写真は以上の4枚である。このあと、私を含む「素人」天体趣味の方々に人気の高い「惑星状星雲」の写真が紹介されている。ダンベル星雲についてはすでに比較したので省略するが、こと座のM57、そしてペルセウス座のM76の観測ができたので、どんな感じになったのがご覧いただきたい。

まずはM57から。

M57リング星雲(こと座)

天リフ編集長と同じ4分の露出だが、なにかがちょっと違う感じがする。この日は湿度が高く、高層に薄い雲がかかっていたような気がするので、光が部分的に吸収されてしまったのかもしれない。ガス構造の細部が写っていない感じがするし、星に靄がかかっているような感じがするのは、そのせいではないだろうか?一方、天リフ編集長が観測した場所は晴天で条件がよかったのかもしれない。とはいえ、私の写真でも、真ん中に白色矮星が写っているような気がするので、それほどまずいというわけでもなさそうである。

距離は2600光年で、ダンベル星雲の1350光年より2倍ほど遠方にある。有名ではあるが、視直径が小さくなって観測しても小さく写るのが「素人向けではない」のかもしれない。ただ、こと座の中に位置しているのでベガを頼りに探しやすい。ダンベル星雲はイルカ座とアルビレオの間にある「こぎつね座」というマイナーな星座を探し出さねばならず、見つけにくいのは確かである。しかし、Unistellarのスマート望遠鏡なら、見つけやすいとか見つけにくいとかいう概念がないので、「みやすいものを楽しむ」ことができる。これは大きな利点だと思う。

次はM76,通称「小ダンベル星雲」である。こちらも2500光年とやや遠い(リング星雲とほぼ同じ距離)。ということで、小さめに写る天体である。天リフ編集長も「小さく淡く、難物」とコメントしている。多分、見つけにくい、という意味だと思う。形式状は「ペルセウス座」にあるとされるが、メインの星座からかなり離れた場所にある。そのため、リング星雲と違って、目印となる天体がないのである。

M76小ダンベル星雲(ペルセウス座

この天体の露出時間は「5分」である。天リフ編集長は「8分」かけている。が、なんとなく、私の写真の方がくっきりしているように見える。背景の星をみると、編集長の写真では星の像が丸くなく、なんとなく「流れている」感じがする。一番明るく大きな構成の十字光条(スパイクというらしい)をみるとダブって見える。これは焦点がずれていることを意味する。つまり、観測しているうちに望遠鏡のピントが甘くなってしまったのだが、それを放置したまま「小さく淡い」天体を観測してしまったのだ。なおのこと「ぼやっと」写ってしまうのは当然だろう。

ということで、露出時間だけでなく、ピント合わせも小まめに行って焦点があっているか確認するのも、綺麗な天体写真を撮るためには大切であるということを学ばせてもらった、ということになる。この星雲は見た目パッとしないので(素人目線です...)、10分とか20分とか露出時間をかけようとは思わないが、機会があったら再度やってみたいと思う。

もうひとつおまけ:ぎょしゃ座散開星団M37

もうひとつだけ「おまけ」を載せておこう。観測しているうちに夜が更け、ついに冬の星座が東の空から上がってきてしまったのだ。そこでぎょしゃ座の3つの星団を一気に観測してみた。が、今回は比較のためにM37とM38だけを掲載したい。

M37散開星団ぎょしゃ座

編集長は「37秒」、私は3分。銀河系内の「近場」の散開星団たった3分我慢するだけで、圧倒的な光量をもって光ってくれる。これなら素人さんたちも大満足なはずだし、素人の私(ただし数年前の私)だって「これはすごい望遠鏡が出た」と感心したかもしれない。

ぎょしゃ座には3つの散開星団がある。M36,M37,M38である。M37だけが星座の5角形の外側にあり、残りの2つは内部にある。ほぼ一列に並んでいて、M37, M36, M38という順番になっている(なぜだろう?)

上のM37は3つの星団中で最大かつ最遠(4500光年)である。M57リング星雲やM76小ダンベル星雲に比べて倍の距離にあるにもかかわらず、この大きさの視直径をもつということは「馬鹿でかい」星集団だからであろう。超新星爆発の残骸は恒星1個の現象であるが、M37には恒星が500個以上も含まれているのだから当然の規模である。赤い恒星が多いが、Wikipedia(英語版)によると形成時期は5.5億年から3.5億年前ということで、3つの散開星団の中では最も古い。赤い恒星は赤色巨星が大半だという。

M38を見てみると、青い星が混じり始めている。「若い」という意味であろう。Wikipedia(英語版)をみると、予想通りM37よりも若いらしい(およそ3億年前に形成)。恒星も「黄色巨星」が多いらしい。赤と青の中間ということだろうか?

M36はぐっと若い星団だという(Wikipedia)。形成されたのは2500万年前だという。オレンジ色の星もあるが、青い星も目立つ。

ということで、ぎょしゃ座の星団は、宮沢賢治風に表現すると、サファイア系とトパーズ系、そしてその中間混合系の3つの星団があるということだ。彼ならば、「星間宝石」のハンターの主人公が、この空域を探検しながら宇宙旅行をする3章構成の小説などを書き上げたかもしれない。

最後のおまけとしてM38を載せておく。

M38散開星団ぎょしゃ座

紫金山アトラス彗星の内部構造

紫金山アトラス彗星は、夕焼けの時間帯から夜の時間帯に移動し、あと少しで天の川に重なるところまできた。

それまで早朝の彗星だったのが、初めて夕方の空に現れたのは10月中旬だった。見つける目印にしたのが、金星とアークトゥルスだった。それから2週間後にもう2度目の観測をしたが、その時が初めてのUnistellar eQuinox2による彗星観測であった。このときは、南斗六星の右隣にある「へびつかい座」という大きな星座を横切っている最中であった。といっても、へびつかい座なんてどこにあるか肉眼ではよくわからないし、eQuinox2を使えば自分で探し出す必要すらない。目印としては役立たなかった(eQuinox2が向いている方角に目をやると微かに肉眼でも見えたが、自力では絶対に無理だろう)。

そして、今、彗星は天の川の岸辺に入って、そのまま夏の大三角の方に向かって進んでいる。宮沢賢治ならお話の一つでも書いてしまいそうな状況である。

しかし、暗い空に彗星が移動したということは、太陽からの距離が離れたことも意味する。彗星の尾は太陽風で吹き飛ばされた彗星の残骸であるから、太陽から遠ざかるほど尾は短くなって写真写りは悪くなっていく。ということで、この彗星観測もそろそろ終わりの時期を迎えつつあるが、夏の大三角に入った姿を見てみたいという欲求は多少ある。たぶん、そこが最後になるような気がする。

昨晩の観測でも尾はだいぶ短くなっていて、eQuinox2のエンハンストビジョンで多少(強引に)長くは見せてくれているが、だんだん「無理」が溜まってきているような気がしないでもない。結果はこんな感じである(ちなみに自分ではレタッチしていない)。

紫金山アトラス彗星(11月4日、8分露出)

アストロアーツの投稿欄に、画像のデジタル処理をして彗星の内部構造を調べていた写真があった。「すごいな!」と感心した。RGBで分解しており、いつか真似してやってみたいと思っているが、まだ、私の能力ではRGB分解は無理である。しかし、iPhotoの機能を使えば、内部構造を見る真似事くらいはできることに気が付き、やってみることにした。

内部構造の解析もどき
光量の多少は、おそらく温度の分布と一致しているのではないかと思う。この画像から、3重構造になっているという推測が立つが、どうして3重なのであろうか?固体、液体、気体?だとすると、ちょっとした「発見」ではないか、と一人で悦に浸っている。

Unistellar eQuinox2で超新星爆発残骸を観測する

Unistellar eQuinox2の本当の力

いろいろな天体の観測をやってみたが、Unistellar eQuinox2は、遠方銀河、特に1000万光年程度地球から離れた銀河の観測に適しているという感想をもった。もちろん、「近く」(といっても10万光年以内、つまり私たちの銀河系の内部)にあっても、それ相応に「小さな」天体なら視直径が適切なサイズとなって、見栄えのする画像で観測することができた。ということで、やってみないとわからない、というのが結論である。

銀河や星雲の撮影は、やはり長時間露出で撮影しないと綺麗な画像は手に入らない。Googleで検索してヒットしたeVscopeやeQuinoxの画像は、5分とか10分程度の露出時間しかかけておらず、あまり見栄えのよい天体写真にはなっていなかった。(たとえば、大阪市立科学館が発行する「マニュアル」の内容はとても秀逸ではあるが、採用されている天体写真は少しばかり”妥協的”品質である)

購入する前、色々とネットで資料を漁っていたときは「自動導入はすごいけれど、この程度のクオリティの観測しかできないなら、60万円も出して買うのはちょっと馬鹿らしいかも」などと思っていた(その後、Unistellar社の初代スマート望遠鏡であるeVscopeの廉価版、eQuinoxが30-40万円で発売され、「安く」感じてしまった私は迂闊にもeQuinox2を購入してしまった....)。

しかし、自分で色々撮影条件を研究して試してみると、驚くような綺麗な写真が撮れることもあり、考えを改めた。ということで、あまりネットには広まっていない「eQuinox2の力」を極力引き出すように頑張ってみた天体観測の結果を少しずつここで紹介していきたいと思う。

超新星爆発残骸の観測をやってみる

まずは、大阪市立科学館のマニュアルの表紙を飾り、マイナビニュースから派生したTech+というサイトの記事のタイトル画面を飾っている、通称「ダンベル星雲」と呼ばれるM27の観測をやってみよう。M27は超新星爆発の残骸(SNR)である。

Wikipediaによれば、爆発したのは3000-4000年前だというから、紀元前1000年から2000年、つまり地球の文明発祥からしばらく経った頃である。地球からの距離は1300光年だというから、生まれたばかりのイエスキリストの頭上で輝いた星の一つだったかもしれない。

さて、大阪市立科学館の写真では4分、マイナビの記事では2分の露出時間をかけて撮影している。並べてみると、露出時間を長くした方が品質がよくなることが実感できる。

(左)大阪市立科学館4分(右)マイナビTech+の記事2分

左の写真でも十分綺麗かもしれない。しかし、この品質では60万円(あるいは30万円)を出す強い動機とはなり得ない。そこで、私は6分の露出時間とし、macOSの写真.app(昔のiPhotoに相当)で自動処理のレタッチをかけてみた。その結果が下である。

「複点一流」6分

複点一流だけ大きな写真にするのはフェアじゃないだろ、という意見にも応えよう。並ばせてみたのが下の写真である。

(左)複点一流6分(中)大阪市立科学館4分(右)マイナビTech+の記事2分

どうだろうか?このクオリティなら、60万円(eVscope2)あるいは30万円(eQuinox2)を出してまで手に入れたいと感じる強い動機になるかもしれないだろう。英語では、この天体に「りんごの食いかけ」というニックネームを与えているそうだが、それに同意できるのは一番左の画質にのみであろう。

ただし、一つだけ注意点がある。マイナビTech+の撮影はそれほど大都市というわけでもなさそうだが、大阪市立科学館の撮影はおそらく大都市「大阪」で実施されたはずである。Unistellarの望遠鏡は都市の光害を気にせずに観測が可能というキャッチコピーだが、さすがに夜空が澄んでいる場所では背景に映る星々の数がかなり違うようである。私の撮影地は関東周辺の高原であるので、大阪とはわずか2分の違いではあるが、より綺麗に撮影できたのだと思う。マイナビの方は、綺麗な夜空の下であっても、露出時間が短過ぎれば綺麗には撮れないことを示唆していると思う。

Unistellar eQuinox2で彗星を観測する

UnistellarのeQuinox2で彗星観測

Unistellar社が販売しているスマート望遠鏡「eQuinox2」を手に入れたので、そのお試し観測をやってみた、というのが前回までの内容であった。恒星、メシア天体、銀河、星雲など、たいていの天体についての位置データは、望遠鏡(eQuinox2)のシステムに事前に登録されているし、太陽系の惑星などは軌道がわかっているので、観測地点の緯度経度、観測日時などを正しくシステムに与えるだけで、夜空におけるその位置は速やかに計算される。つまり「固定天体」に関しては、ユーザーはシステムの「言うなり」になっていればよいのである。

一方で、新星や超新星のように急に現れたり、彗星のように夜空における位置変化が大きな「動的天体」の観測については、システムにその位置データをあらかじめ記録しておくことができない。このような動的天体の観測に対して、eQuinox2はどう対処しているのであろうか?

Unistellarが配布するクイックスタートガイドにも、テクニカルガイドブックにも、説明や記述がまったくない。今回も検索して調べてみるしかなったが、やってみるといろいろと情報が手に入った。しかし(予想通り)その説明はわかりにくいものであった。「実際にやってみたよ」といった具体例もあまりなく、自分でやってみるまでは、「eQuinox2のシステムにあらかじめ登録されていない天体を本当に観測できるのであろうか?」と不安だらけであった。

少々暗くなりつつはあるものの、数十年ぶりの明るい彗星「紫金山アトラス彗星」が今ちょうど地球の近くにいて、観測の好機にある。そこで、この彗星を標的に、eQuinox2の「動的天体観測」のやり方を調べてみた。

Unistellar社のサーバーからデータをダウンロードする

完全な「新発見」天体ならば自分で座標計算する必要があるだろうが、たいていの動的天体は世界のプロ並みアマチュア天文家がすでに発見し、その位置情報などが公開されている。私たち「ただの素人天体観測者」はその「2番煎じ」的な観測をすることが多い。とはいえ、多くの後続観測によって新たな科学的発見がなされることもあるし、そもそも彗星の写真は綺麗だから自分でも撮影してみたい!そのような場合は、といっても「たいていの場合」はこちら(=2番煎じ)だろうが、Unistellar社がWebサーバーに軌道データをアップロードしてくれているので、そのデータをiPad/iPhoneに吸い取って、自分のeQuinox2にマウントすることができる。こうすることでeQuinox2でも彗星などの動的天体を観測することができるようになる。

最初の0歩(事前準備)

ということで、さっそくデータのダウンロードをやってみたい、と思うだろうが、実際に彗星の観測をeQuinox2でやってみようと思う人は、まずはその前に望遠鏡を組み立て、ダークフレーム取得、オリエンテーション、そしてバーティノフマスクをつかった焦点合わせ、といった望遠鏡の設定(組み立てやオリエンテーション)や調整(カリブレーション)をあらかじめやっておくべきである。かくいう私は、データのダウンロードの方ばかりに注意が行ってしまい、最初の観測ではうまく彗星を捕捉することができなかったのである....。その理由に関しては、これからの説明を読んでいけば納得してもらえると思う。もちろん、観測を行わず、ただ単に「どうやってやるのか」だけに興味がある人は、望遠鏡を設置する必要がないのは当然である。

最初の一歩(準備)

さて、望遠鏡の設定と調整が終わったと仮定しよう。最初にやるべきことは、iPadの接続を通常のインターネット接続に戻すことである。

望遠鏡の設定を実施するためには、望遠鏡自体が提供するWiFi LANである"eQuinox2-xxxxxx"という形式のネットワーク名をもったLANにiPadを接続しなければならなかった(すでに以前の記事で説明したとおり)。しかし、彗星の位置データをUnistellarのwebサーバーからダウンロードするには、当然ながら(WiFiの接続を最初の状態に戻して)Internetへ繋ぎ直す必要がある。もちろんiPhoneやCellular+WiFi版のiPadなら、5G/6G回線を使ってネット接続ができるだろうから、その場合にはWiFiのネットワークを変更する必要はない。これはあくまで、WiFi専用のiPadを用いてeQuinox2を操作する私のような観測者向けの注意喚起である。

第二歩目

ここでいよいよ、天体データのアクセスに挑戦である。

まずはiPadでUnistellarアプリを起動し、HOME画面を映す。そして、HOME画面の下のほうにある「科学」アイコンを探しクリックする。次の2枚の写真は上がiPod/iPhone版、下がiPad版であるが、上の写真の方がわかりやすいと思う。

Unistellarアプリのホーム画面
Unistellarアプリのホーム画面(iPad版)

「科学」セクションに入ると、検索したい「動的天体」のカテゴリーが表示される。地球に衝突する可能性がある小惑星とか、系外惑星のトランジット(食)などである。ちなみに、「宇宙の大変動」という恐ろしげな絵は「超新星爆発」や「新星爆発」のことである。

「科学」セクションの画面

我々が今回興味を持っているのは彗星なので、「彗星活動」の絵をクリックして先へ進む。 Unistellarアプリの画面が切り替わり、次のような感じとなる。

「彗星活動」モード

「予測を見つける」ボタンを押すわけだが、ここから先はひどく非効率な作業行程を強いられる。イラつかないように頑張ろう。ボタンを押すと、Webブラウザが起動し、アプリからしばし離れることになる。

3歩目:彗星活動(Cometary activity)

ブラウザに移行した後のUnistellarウェブサイトには、デザイン上に問題がたくさんあって、かなり非効率的な作業を強制されることになるのだが、そこは我慢しよう

たどり着いたUnistellarのサイトとはCometary activity(彗星活動)の「MISSIONS」の画面である。実はこのページでやることは何もない。Unistellarがおすすめの天体についてニュースを提供しているだけのページだからである。

彗星のデータをダウンロードするためには、画面上の「Comets」というリンクにマウスを当て、プルダウンメニューを引き出す。メニューの上から2つ目が「Comets Ephemeris」という選択肢になっているが、選ぶのはこのリンクである!(下の図参照)

Cometary activityのMISSIONS画面

ちなみにEphemerisというのは天体の位置を時間の関数で表したもので、これこそが我々が欲しい彗星の位置データである。細かいことを言うと、このデータは様々な時間ごとに分割して提供されている。例えば、秋の宵の観測なら、19時過ぎの時間帯になるだろうから、19:20, 19:25, 19:30, 19:35,....といった具合である。それぞれの時間における天体(彗星)の天空での位置(赤経赤緯)が計算されてデータ化されているから、自分が観測できそうな時間のデータを選択してダウンロードするのである。よくばって、現在時刻の1分後などのデータを選んでしまうと、望遠鏡の設定にまごついている間にデータを計算した時刻が過ぎ去ってしまい、望遠鏡がその地点を向いたときには、すでに天体は移動してしまってなにも映らない、ということになるから要注意である(というか、私はこのミスをやってしまったので、ここで忠告も兼ねてメモを書いているわけである)。

第4歩:Comets Ephemerisのセクション

Comets Ephemerisのページに入ると次のような画面が表示される。

Comets Ephemerisのトップ画面

ここから下の方に若干スクロールダウンすると、パラメータ入力のためのフォームが現れる。入力するのは彗星の識別名(これはリストから選択できる)と観測地点の緯度経度の情報である。彗星の名前はもちろん紫金山アトラス彗星であるが、英語名"C/2023 A, Tsuchinshan-ATLAS"を選ぼう。観測地点についてはiPad/iPhoneGPS機能を利用してもよいが、国土地理院のサービスを利用して自分の位置を調べ、その値をインプットしてもよい(前のブログ記事で説明した通りのことをやればよい)。また、彗星の位置計算を始めたい時刻を入力する。繰り返すが、この時間については、思い切って10分後くらいにしておいた方がいいだろう。どうせいろいろなトラブルが発生し、望遠鏡の設定が終わるまでには結構な時間がかかってしまうだろうからである。

フォームにすべてのパラメータを入力した後、「Generate」ボタンを押す。 すると、同じページの下の方に、時間ごとの彗星の位置データが列挙されて追加表示される。

Comets Ephemerisのデータが列挙されたところ

上の写真の例では10月26日の19:25から5分刻みでデータが生成されていることが確認できるだろう。このデータのうち、どれを選べば良いか最初は戸惑うと思うが、例えば、欲ばらずに一番下の19:45のデータなどを選ぼう(実際には、私は一番上の19:25のデータを最初選んでしまい、この時間までに望遠鏡の調整を間に合わせることができず観測に失敗した)。

「選ぶ」といっても、データ項目の一番右側にあるスマートフォンのアイコンをクリックするだけである。これでデータの内容がiPadのメモリにコピーされたのである。間髪入れず、「Unistellarで開きますか?」とダイアログ窓が開くので、「開く」を選ぶ。ここからは、再びアプリへと戻ることになる。

アプリへ戻るダイアログが出たところ

第5歩:Unistellarアプリを使って「天体を入れる」

データをコピーし、アプリに戻ったところが、下の図である。自分で選んだ時刻になると彗星が現れる(夜空での)位置が、座標によって表示されている(薄い字で)。その時間になるまで、この状態で待機する。

そして、その時間が来たら「天体を入れる」ボタンを押すのである!(間違えて「予測を見つける」ボタンを押すべからず。押すと、またCometary activity: MISSIONSのHPへ逆戻りすることになる.....。)

アプリに戻ったところ

これでわかったと思うが、事前に望遠鏡の設定を終わらせておくのがとても大切なのである。よく見ると、画面の右上には「サイエンスミッションを始める前に、望遠鏡のオリエンテーション設定を済ませておいてください」みたいな文書が書いてあることに気づくだろう。

第6歩:彗星が現れる!

「天体を入れる」ボタンを押し、すべてが順調にいけば、次のような彗星の観測像がiPadに映し出されるはずである。

紫金山アトラス彗星が映った状態

肉眼で望遠鏡が向いていく方向を見てみたが、西の地平線の上には雲が薄くかかっていて、肉眼で彗星の位置を把握することは無理であった。いかにこのスマート望遠鏡が素晴らしいかを実感することができた。

ちなみに、アプリ操作しているときの直近時刻のデータを欲張って選んでしまい、その後に望遠鏡の設定に手間取って、計算した時刻をはるかに過ぎてしまった場合(最初の観測)の状況が次の図である。

失敗した時の状況

望遠鏡が向いている位置にはもう彗星はいないのであるから、何も映らないのは当然である。しかし、馬鹿な私は「露出不足?」とか思ってしまい、いろいろと無駄な努力をして時間を無駄にしてしまった....。みなさんはそうならないように注意していただきたい。

ちなみに、位置データがどの程度ずれていくか見てみよう。最初に選んだのは19:25のデータだった。(図を見ると)このときの彗星の座標は(17h28m24.77s, 3°23'31.91'')になっているのがわかる。この観測をしているときの時刻は19:58なので、計算時刻よりも33分遅れていることがわかる。当然彗星は別の場所に移動してしまったのである。一方、観測に成功したのは20:05の時刻のデータだったと思うが、観測を開始したのは20:06のちょっと前であった。ちょっとずれてしまったが、なんとか望遠鏡の視野ないに彗星が入り込んでくれた。座標の値は(19h28m26.24s, 3°23'33.03'')とわずかに動いているのがわかる。この時間変化こそが「動的天体」の本質であろう。

Unistellarのサーバーに観測データを送付し、研究グループの一員として貢献したいならば、一番下の「記録する」ボタンを押し、後でインターネットに繋ぎ直してデータをアップロードするといいだろう。

しかし、個人的な観測を行いたいならば、ここでこのモードから抜けて、いつも「観測モード」に戻るのがいいだろう。望遠鏡は彗星の方向を向いているので、そのままの状態を維持しつつ、観測モードへと移動すればよい(画面左上の矢印ボタンなどを押してHOME画面に戻る)。

結局、「記録」した内容を個々の観測者は除いたり、解析したりすることはできない。あくまでUnistellarサーバーが利用するだけのデータであるらしい。

最終歩:観測モードにて

望遠鏡は彗星の方を向いているので、観測モードに移行しても、iPadの画面には彗星が映っている。ただし、ライブビューになっているので、彗星の姿は淡いものになっている。とはいえ、中心部分は確認できるだろう。

観測モードのライブビューの状態

私の場合は、この微かな光を利用して、彗星の位置を手動で微調整して視野の中心にもってくるようにした。「スローモード」ボタンを押しておくのを忘れないように。失敗すると彗星が視野から外れてしまい、これまでの作業を一からやり直すはめになるだろう(幸いにも、私はその失敗はせずに済んだ)。

「観測」モードから「操作」モードに移ったところ

上の画面の右にある「スロットル」を指で操作して、彗星の位置を視野の真ん中へと移動させるのである。少しずつゆっくり、慎重にやるのがコツである。

さて、淡い彗星が見たいわけではないので、画質を上げるために「エンハンストビジョン」に切り替えよう。

44秒の露出によって得られた画像(右上の恒星はへびつかい座βか?)

ここに至るまでに様々な失敗をしてしまったため、観測時間を随分無駄にしてしまった。そのせいで、彗星の高度はかなり落ちてしまい、西の地平線の上にたなびく雲がかかり始めてしまった。エンハンストビジョンは度々中断され、結局60秒を超えることはできなかった。この日を境に毎晩曇りか雨の日が続いて観測ができなくなってしまったので、この失敗は非常に悔やまれる。

この状態で「カメラ」アイコンを押してjpegデータに落とし、写真アプリ、あるいはiPhotoで画像処理して得られたのが次の画像である。これが今回の最終到達地点である。まあ、最初の試みとしては「成功」といってよいのではないだろうか?

画像処理したもの