複天一流:どんな手を使ってでも問題解決を図るブログ

宮本武蔵の五輪書の教えに従い、どんな手を使ってでも問題解決を図るブログです(特に、科学、数学、工学の問題についてですが)

東京大学2023数学[2]-(1) part6: 「最後の詰め」の正体

前回のあらすじ

「赤玉が隣り合う」という余事象を探し続けて三千里。ようやく旅の終わりが見えてきたと思ったのだが、最後の段階で、「あとほんのわずか数え落としがある」らしいことが判明し、がっくり落胆、意気消沈ということになった前回である。確率にして約$\frac{41}{55}-\frac{40}{55}=\frac{1}{55}$の分だけ何かを数え落としてしまっている。果たしてどこに隠れているのであろうか?

試験中にこんなことが起きたものなら、疑心暗鬼が渦巻いて、おそらくパニック状態になってしまうであろう。一番の底なし沼は、「今までに想定した事象だけでは尽くされていないのではないか?」という疑念である。これが心に浮かんできてしまうと、これまでの考え方をすべて改めないといけなくなり、「おかしい、どこもおかしくない」という状態になる。こうなると沼から脱出するのは到底不可能となるだろう。

沼から抜け出すには、「これまで考えてきたパターンA, B, Cだけで全てが尽くされており、きっと個別のケースのどこかに計算間違いがあるに違いない」と強く信じないといけないのである。

ちなみに私はこんな強い精神を持ち合わせておらず、疑心暗鬼の渦が心に巻いて、精神消耗、疲労困憊、脱力して、やる気消失といった負のスパイラルに陥ってしまったのであった.....。

「最後の詰め」の正体

いろいろと疑心暗鬼になりながらも、なんとか心の平静を保つことに心がけ、個別のケースの再確認に集中することにした。

よくプログラムのデバッグ作業で気をつけるコツがあるので、まずはそれを適用してみることにしたのだ。境界値テストとか境界値分析と呼ばれることもあるが、要は条件の端点(物理でいう漸近極限での振る舞いの確認に相当)でのデバッグである。具体的には、

i >= Nmax 

なのか(つまり端点込み)、それとも

i > Nmax

なのか(つまり端点含まず)の確認である。

我々の場合、端点確認はパターンA,B,Cの3つの場合だけに対して行えば良い。それぞれのパターンで最小値と最大値の2つの確認があるから、合計で6つのチェックだけですむ。これなら試験中でもなんとか対処できそうだ(私の場合にはすでにひと月にも及んでいるが.....笑)。6つのケースについて丁寧に確認作業を行なってみたら、やはりあったのである!それはパターンBの最大値のケースであった。

パターンBの最大値の確認

まずはパターンBについて復習しておこう。このパターンは、最初に赤玉2つが連続する以前に(「前列」と呼んだ位置に)一つだけ赤玉が孤立して出てしまった場合である。分析の結果、その一般項は \begin{equation} p_{n,n+1}^B=\frac{(11-n)(n-2)}{5\cdot 9\cdot 11} \end{equation} となり、また添字の走る範囲を$n=3,4,\cdots, 9$と考えた。$n=3$のケースは間違っていなかったのだが、$n=9$で終わると考えたのが誤りだったのだ。つまりパターンBは$n=10$まで存在できるのである!

まずは十二個の玉からなる色列を3つ部分に分けて考えるいつものやり方を採用しよう。つまり、 \begin{equation}\text{[前列][赤赤][後列]}\end{equation} という列の部分分解である。前列には赤が一つはいるが、[赤赤]の直前は非赤でなければならない(非赤をOで表すとする)から、前列の構造は \begin{equation} \text{[前列]}=\text{[....赤....O]} \end{equation} となる必要がある。

[赤赤]対の先頭の位置が$n=9$までと考えたわけだが、この場合、後列は[11,12]となって2つの玉が入りうる。赤玉は全部で4つだから、後列の2つのうち一つが赤玉、もう一つが非赤玉となる。つまり、$n=9$の場合の後列の構造は[O赤]か[赤O]の2種類しかないことになる。2つ目のケースの場合は、赤赤対と合わせると、赤が3回連続するケースとなる。つまり[.....赤....O][赤赤][赤O]である。

さて、これまでは$n=10$の場合は「範囲外」だと思っていたわけだが、それは間違いであることを示そう。上の$n=9$のケースの後列の候補の一つで、赤が3回連続する場合が許された。$n=10$の場合、後列のスロットには1つしか残らないので、そこはuniqueに赤になる。つまり、[....赤....O][赤赤][赤]という構造になるが、これはパターンBとして「許される」並び方である。見逃していたのはこのケースであった。

当然ながら$n=11$の場合は存在しないことがわかる。というのは後列のスロットが0個になってしまい、赤玉の置き場所がなくなっていまうからだ(もし前列にもっていくと、それはパターンCとなってしまう)。

最後の確認

ということで、さっそく上限を$n=10$に変更し、パターンBの全確率を計算し直してみよう。果たして見逃していた1/55の「最後の詰め」は埋まるだろうか? \begin{equation} p^B=\sum_{n=3}^{10}p_{n,n+1}^B = \frac{8}{33}\frac{14}{15} + \frac{8}{5\cdot 9 \cdot 11} = \frac{8}{9\cdot 5\cdot 11}\left(14 + 1\right) = \frac{8}{33} \end{equation}

以前の計算結果を引用すると、$p_A=\frac{1}{3}$,および$p_c=\frac{28}{165} = \frac{4\cdot 7}{3\cdot 5\cdot 11}$であるから、 \begin{align} p^A+p^B+p^C = & \frac{1}{3} + \frac{8}{33} + \frac{28}{5}\frac{1}{33} = \frac{1}{3} + \frac{4}{33}\left(2+\frac{7}{5}\right) \\ = & \frac{1}{3} + \frac{4}{33}\frac{17}{5} = \frac{1}{3}\left(1+ \frac{4}{11}\frac{17}{5}\right) \\ = & \frac{1}{3}\frac{55+68}{55} = \frac{1}{3}\frac{123}{55} \\ = & \frac{41}{55} \end{align} となって、ついに正解に到達した!

数え落としはパターンBの$n=10$の場合だけであったのである(安堵の吐息...)。

確率の数え上げは、もはやここまでくると「精神修養」以外のなにものでもないような気がしてきた。

「無心」。これが勝利への秘訣である(笑)。