複天一流:どんな手を使ってでも問題解決を図るブログ

宮本武蔵の五輪書の教えに従い、どんな手を使ってでも問題解決を図るブログです(特に、科学、数学、工学の問題についてですが)

東京大学2023数学[2]-(1) part5: 最後の詰めを誤る

前回のあらすじ

赤玉4つ、黒玉3つ、白玉5つが入った袋から一つずつ取り出し、一列に並べてカラーシーケンス(色列)●●●を作る問題。シーケンスのパターンの中に赤が連続したものが入らない確率を計算してきたが、pythonでプログラムしたシミュレータの出力結果の分析から、答えは$p_0=14/55$であるらしいことがわかった。別に行った解析的な考察ではターゲット集合の補集合の数え上げの戦略を採用し、パターンA、パターンBの2つの場合の「公式」の導出には成功した。しかし、まだ考慮していないパターンCがあるらしいこともわかり、おそらくこのパターンCをもって、すべての補事象が出揃うだろうと予想した。

いよいよその最後の計算$p_0=1-(p_A+p_B+p_C)\rightarrow 14/55$を証明するために、複天一流の奥義を駆使して$p_C$の解析的な表現を今回は見つけてしまおうと思うのである。

パターンA, B, Cの定義の復習

パターンA,B,Cは計算すべき集合(事象)の補集合(補事象)である。

事象Aは4つの赤玉のうち、少なくとも2つの赤玉が隣り合っている事象であるが、この赤玉のペアの前の位置(前列と名付ける)には赤玉が一つも含まれない事象とする。たとえば、赤玉をX、白玉をO、黒玉を@で表すと、[OO@@O@][XX][OXOX]といった並びがその例となる。ここで色列を \begin{equation} [\text{前列}][\text{赤対}_1][\text{後列}]\end{equation}と言う具合に3つの部分に分けて考えることにする。 事象Aは、前列に赤玉(X)が一つも含まれない事象である。赤対の最初の玉の位置を$n$とし、その確率を$p^A_{n,n+1}$で表すと、 \begin{equation}p^A_{n,n+1} = \frac{(11-n)(10-n)}{9\cdot 10\cdot 11}\end{equation}となることを以前導出した。$n$は1から9までの整数である。

事象Bは前列に赤玉が一つだけ入る事象である。ただし、赤対の直前に赤玉が来るとそれは事象Aに属する色列になってしまうので、赤対の前は必ず非赤となる必要がある。たとえば、\begin{equation}[\text{O@OOXO}][\text{XX}][\text{XO@@}]\end{equation}は事象Bに属する。事象Aと同様に、事象Bの場合も一般項の形を導出することは可能で、調べてみると\begin{equation}p^B_{n,n+1}=\frac{(11-n)(n-2)}{5\cdot 9 \cdot 11}\end{equation}であった。$n$は3から9までの整数と分析した。

事象Cは前列に赤玉がペアを作らずに2つ入り、赤対の直前が非赤になる事象である。つまり、前列に入った2つの赤玉は隣り合ってはならない。例えば、\begin{equation}[\text{OOXOX@}][\text{XX}][\text{@O@O}]\end{equation}といった感じの色列である。この場合の一般項の表式を導出するのが今回の目的である。

集合と確率の関係

全体集合をSとし、赤玉が隣合わない事象をTで表す。その補事象は$T^C$で表す。 \begin{equation} S =T\oplus T^C\end{equation} したがって、\begin{equation}T^C=A\oplus B\oplus C,\end{equation} このとき\begin{equation}A\cap B=\phi, B\cap C = \phi, C\cap A=\phi\end{equation}である。

この集合(事象)を確率空間に射影する。$p(S)=1$であり、\begin{equation}p_0 \equiv p(T) = 1-p(T^C)\end{equation}である。さらに、\begin{equation}p(T^C) = p_A+p_B+p_C\end{equation}がなりたつ。

事象Aの確率は \begin{equation}p_A = \sum_{n=1}^9 p^A_{n,n+1} = \frac{1}{990}\sum_{n=1}^9(11-n)(10-n)=\frac{1}{3}\end{equation}と計算され、 事象Bの方は \begin{equation}p_B = \sum_{n=3}^9 p^B_{n,n+1} =\frac{2}{990}\sum_{n=3}^9(11-n)(n-2)=\frac{8}{33}\frac{14}{15}\end{equation}となった。

\begin{equation}p_A+p_B = \frac{277}{495} \simeq 0.56\end{equation}であり、正解の$p_0=41/55\simeq 0.7454...$に至るにはまだ0.1858...ポイントほど不足している。これを事象Cが埋めてくれるのではないかと期待しているわけである。

パターンC(事象C)の確率の一般項

例によって色列を3つの部分に分割する。真ん中の「赤対」の先頭が列全体の$n$番目にくる確率を$p^C_{n,n+1}$と書くことにする。前列に残りの赤玉2つが入ってしまうので、後列は非赤の玉(白と黒)だけで構成されることになる。全部で12個の玉があるので、後列のスロット数は$12-(n+1)=11-n$個となる。非赤玉の総数は8個だから、前列に含まれる非赤の玉の個数は$8-(11-n)=n-3$個。これに赤玉2つを足すから、前列のスロット数は$(n-3)+2=n-1$個となる。前列の最後尾(つまり色列の$n-1$番目)は必ず非赤をおかねばならない(さもないとパターンBやAになってしまう)ので、前列で自由に選べるスロットは最初の$n-2$個となる。まとめると

[前列(n-1):(赤2,非赤n-4)+(非赤1)][XX][後列(非赤のみで11-n)]

という構造になる。

後列のパターンの総数は、非赤玉の全8個から11-n個を選ぶ組み合わせ数に、選んだ11-n個の非赤玉の順列数(11-n)!をかけたもの、つまり \begin{equation}\text{後列} \rightarrow \frac{8!}{(11-n)!(8-(11-n))!} \cdot (11-n)! = \frac{8!}{(n-3)!}\end{equation}となる。

赤対に関しては赤玉の全4つから2つを選び、その順列2!をかけたものなので、\begin{equation}\frac{4!}{2!}{(4-2)!}\cdot 2= 12\end{equation}である。

最後は前列である。まず$n-1$番目のスロットに非赤を選ぶパターン数は(n-3)である(前列に入る非赤玉の総数と同じ)。1番目から(n-2)番目までの順列は$(n-2)!$であるから、前列に入る2つの赤玉の関係を気にせず、上の構造をもつ色列のパターン総数$N(C^+)$は \begin{equation} N(C^+) = (n-2)! (n-3) \cdot 12 \cdot \frac{8!}{(n-3)!} = 12\cdot 8! (n-2)(n-3)\end{equation}となる。

集合としての$C^+$は、前列に2つ入った赤玉が隣り合う事象($C_p$と書くことにする)と隣合わない事象($C_{np}$と書くことにする)の直和である。 \begin{equation} C^+ = C_p\oplus C_{np}\end{equation} したがって、補事象の定理を使って \begin{equation} p(C_{np}) = p(C^+) - p(C_p)\end{equation}という形で欲しい確率を計算することができる。隣合わない事象の数え上げというのは(私には)とても難しいものに思えるが、隣り合う事象の数え上げはなんとなくやれそうな気がするというのも、この式を利用する理由の一つである。

$N(C_p)$の数え上げは、赤対1つと、非赤玉(n-4)個の順列数に等しい。すなわち、$((n-4)+1)!=(n-3)!$である。ただし、赤対を構成する赤玉同士の交換に関するパターン2種があるから$2(n-3)!$となることに注意する。つまり、\begin{equation}N(C_p)=2(n-3)!(n-3)\cdot 12\cdot\frac{8!}{(n-3)!} = 24\cdot 8! (n-3)\end{equation}である。

以上より、\begin{align} N(C_{np}) = & N(C^+)-N(C_p) \\ = & \left\{ (n-2)!-2(n-3)!\right\}(n-3)\cdot 12 \cdot \frac{8!}{(n-3)!} \\ = & 12\cdot 8! (n-3)(n-4)\end{align}を得る。全体を12!で割れば確率となるから、 \begin{equation}p^C_{n,n+1} = \frac{N(C_{np})}{12!} = \frac{(n-3)(n-4)}{9\cdot 10 \cdot 11}\end{equation}となる。ただし、$n=5,\cdots, 11$のみで有効である。

$p_C$の確率の算出

パターンCの事象全体の確率は、上で求めた一般項を足しあげることで計算できる。3種類の和の公式を利用すると \begin{equation}p_C = \sum_{n=5}^{11}p^C_{n,n+1} = \frac{1}{9\cdot 10 \cdot 11}\sum_{n=5}^{11}(n-3)(n-4) = \frac{28}{3\cdot 5\cdot 11} = \frac{28}{165} \simeq 0.16969....\end{equation}となった。

先に計算した「補事象の充填度合い」では、0.1858...程度を事象Cが担う必要があったのだが、今計算して得た確率は0.17程度であるから「ほんのちょっと不足」するように思える。実際計算してみると \begin{equation} p_A + p_B + p_C = \frac{1}{55}\frac{361}{9} \simeq \frac{40}{55}\end{equation}となった。正解は$1-p_0 = 41/55$だから、「あとほんの少し」だけ足りない!これはどうみても「数え落とし」が原因であろう。

おおよその考察は正しいのだが、おそらくどこかでマイナーの集合の数え落としがあり、それが原因であとわずか不足している、と考えたいものである。

最後の詰めを誤ったようである。例えて言えば、藤井7冠に大逆転を許した永瀬王座の痛恨の一手のようなものである(東大に入れない単なる数え落とし野郎と、世紀の名一番を闘った棋聖たちとを比べるのは、いくらなんでもおこがましい!というお叱りは覚悟の上)。はたして、どこにその「落とし穴」があるのであろうか?複天一流としてはどう攻めるべきか?数値計算?それとも徹底的な論理のバグ探し?いずれにせよ、試験中にこれが起きるとお手上げなのは間違いあるまい。精神が消耗しきって立ち直れない。