複天一流:どんな手を使ってでも問題解決を図るブログ

宮本武蔵の五輪書の教えに従い、どんな手を使ってでも問題解決を図るブログです(特に、科学、数学、工学の問題についてですが)

東京大学入試問題(数学)2024に取り掛かり始める

2024年の試験問題を解き始めよう

東京大学の二次試験が終了し、そろそろ合格発表ではないだろうか?まだ東大のHPでは公開されてはいないが、ネットには今年の問題がちらほらと紹介されているようなので、その情報を使って「複天一流」の観点から今年も楽しんでみようと思う。

受験生とは違い、これから一年かけてゆっくりと解けばよいので慌てずに行こうと思う。今回は、肩慣らしの「問題1」である。本番の受験であるならば、10分-20分程度で完答しないと首の周りが冷えてくるはずだが、我々には十分時間がある!

問題1:3次元空間の問題?

東大の数学の特徴は、かならず3次元空間図形の問題が1題出題されることである。この「問題1」がそれになっているような気がしないでもないが、東大の空間図形の問題は「差をつけるため」の問題であって、問題1のような「まずはこれが解けないと話にならない」といった「足切り系」の問題ではないはずである。問題を通し見ると、第5問にちゃんと立体図形の問題が出題されている。たぶん、そちらの方が難しいのではないだろうか?

問題1は3次元ベクトルの角度を吟味する問題であるが、これはDOOMのような3Dビデオゲームでもっとも重要な計算対象である!もちろん、それは内積によって計算するのが王道である。今回は2つの不等式が与えられているが、当たり判定が2つ提示されたシューティングゲームのようなものとみなせるだろう。たとえば、相手の宇宙戦艦の砲塔の回転角度限界と、宇宙戦艦の船体の影の範囲に対応する二つの条件のようなものである。この2つの共通領域を計算することで、絶対に相手の弾が当たらない「安全ゾーン」のようなものが見つかる、というイメージである。昔のグラディウスの一面最後のような感じであろうか?(あれは火山弾が当たらない位置を見出すのが重要であった)。

retro.opatil.com

さて、登場するのは3つの点である。原点O(0,0,0)、定点A(0,-1,1)、そして移動点P(x,y,0)。点Pの移動範囲はxy平面内に制限されている。

次に、二つの角度が登場する。このブログでは$\theta,\phi$で表すことにする。すなわち、 \begin{equation} \angle O A P = \phi, \quad \angle A O P = \theta \end{equation} である。

問題文では \begin{equation} \frac{2\pi}{3} \le \theta, \quad \phi \le \frac{\pi}{6} \end{equation} という範囲が与えられているが、これをxとyとによって表される不等式に書き換えて、問題を吟味することになる。素直に計算すると、楕円の内部と楔形のような領域の共通領域が答えになる。

しかし、今回の問題は、正直言って「デジャブ」である。共通テストの対数関数のところで似たような問題を解いた記憶がある。あのとき使ったpythonのプログラムを改良し、シミュレーションしてみよう。

とはいえ、最低限の解析的計算は必要である。今回は3Dビデオゲームでも重要な役割を担い、線形代数でも「長さ」の概念に結びつく内積である。

まずは手始めに2つの3次元ベクトルが与えられた時に、その角度がどのような範囲を持つか確認しておこう。

2つの3次元ベクトルの角度の範囲

二つのベクトルは、異なる三つの点を3次元空間に置くことで設定できる。物理学者なら空間の対称性(平行移動と回転)から、原点は任意の位置に選べる、と言い張り、まずは3点のうちの一つを原点にしても一般性は損なわれない、と宣言するだろう。つまり一つ目の点がO(0,0,0)になる。

二つ目の点については座標軸(といって3次元デカルト座標)の選び方は(やはり空間の回転対称性により)自由であるから、Z軸にあるものとしても一般性は損なわれない、とやはり宣言するだろう。またスケールの選び方も自由(ゲージ変換/スケール変換に対する自由度、あるいは目盛りの取り方は人それぞれ勝手にやってよい)だから、二つ目の点はA(0,0,1)と書いていいだろう。

最後の三つ目の点に関しては、以上のような自由度は存在しない。つまり3つ目の点はP(x,y,z)と書かねばならない。3つの決まらない変数によって表されるのが三つ目の点である。だから、この空間は「3次元空間」なのである。

さて、OAとOPの間の角度$\varphi$の範囲がどうなるか見てみよう。3次元極座標を用いれば、 \begin{equation} x=r\cos\phi\sin\theta, \quad y=r\sin\phi\sin\theta, \quad z = r\cos\theta \end{equation} であるから、2つのベクトル$\overrightarrow{OA}, \overrightarrow{OP}$の内積は \begin{equation} \overrightarrow{OA}\cdot\overrightarrow{OP} = z = r\cos\theta \end{equation} となる。内積の定義を考えると、$\theta$が二つのベクトルの角度に対応しているが、これは天頂角であるから \begin{equation} 0\le \theta \le \pi \end{equation} である。つまり、2つの3次元ベクトルの間の角度は0から$\pi$までに限られるということである。

問題1の条件を拡張する

内積から導いた二つのベクトルの間の角度の範囲を考えると、問題で考える二つの角度が満たす不等式は \begin{equation} \frac{2\pi}{3} \le \theta \le \pi, \quad 0\le \phi \le \frac{\pi}{6} \end{equation} と拡張できることがわかった。

この範囲で、余弦関数は常に単調減少である(余弦関数を考える理由は内積で角度を考えると余弦になるからである)。したがって、 \begin{equation} \cos\pi \le \cos\theta \le \cos\frac{2\pi}{3} \quad \rightarrow \quad -1 \le \cos\theta \le -\frac{1}{2} \end{equation} および \begin{equation} \cos\frac{\pi}{6}\le \cos\phi \le \cos 0 \quad \rightarrow \quad \frac{\sqrt{3}}{2}\le\cos\phi\le 1 \end{equation} という不等式に書き換えることができる。

余弦関数を内積とノルムによって書き直せば、まずは解析的準備は完了である。 すなわち、 \begin{equation} \overrightarrow{O A}\cdot\overrightarrow{O P} = |O A||O P|\cos\theta \end{equation}

\begin{equation} \overrightarrow{A O}\cdot\overrightarrow{A P} = |A O||A P|\cos\phi \end{equation} を利用する。

$\overrightarrow{AO}=-\overrightarrow{OA}$であり、$\overrightarrow{AP}=\overrightarrow{OP}-\overrightarrow{OA}$であるから、上の関係式は \begin{equation} \cos\theta = -\frac{y}{\sqrt{2(x^2 + y^2)}} \end{equation} \begin{equation} \cos\phi = \frac{y+2}{\sqrt{2(x^2+y^2+2y+2)}} \end{equation} と変形できる。

こうして、x,yに関する不等式が2つ手に入る。(つづく)

付録

For the constant vector \begin{equation} \overrightarrow{OA} = -\boldsymbol{e}_y + \boldsymbol{e}_z, \end{equation} the norm is calculated to be $\sqrt{2}$.

As for the variable vector \begin{equation} \overrightarrow{OP} = x\boldsymbol{e}_x + y \boldsymbol{e}_y, \end{equation} the norm is evaluated to be $\sqrt{x^2+y^2}$.

The inner product of these two vectors is calculated to be \begin{equation} \overrightarrow{OA}\cdot\overrightarrow{OP} = -y \end{equation}

The norm of $\overrightarrow{AP}=\overrightarrow{OP}-\overrightarrow{OA}$ can be obtained through the squared norm, that is, \begin{equation} |AP|^2 =\overrightarrow{AP}\cdot\overrightarrow{AP} = |OP|^2 + |OA|^2 - 2\overrightarrow{OP}\cdot\overrightarrow{OA}, \end{equation} which is calculated to $(x^2 + y^2) + 2 +2y$.