複天一流:どんな手を使ってでも問題解決を図るブログ

宮本武蔵の五輪書の教えに従い、どんな手を使ってでも問題解決を図るブログです(特に、科学、数学、工学の問題についてですが)

共通テスト2024(数学):星と円の図形 part 1

問(2)は円と星の図形

問(1)が片付いたので、問(2)へ進もう。今度は星に円が加わった図形である。

ただ星の外側の点A,B,C,D,Eではなく、内側にできた交点P,Q,R,S,Tが円周上に乗っているという条件である。AC=8ということなので、比率の値がそのまま長さの絶対値としていい、というお墨付きが与えられた。ということで、QP=2, QA=5, QC=3である。また、AT=ST, AS=AT+STという関係式を思い出せという指示もあるが、こちらは問(1)でも使ったものであり、目新しい条件ではない。目新しいのは、P,Q,R,S,Tがある円の周上に乗っているという条件のほうで、こちらの方が強い制限である。

さて、この状況で「点A,S,T,P,Qに着目してATの長さを求めよ」というのだが、そんなことが可能なんだろうか?

こんな問題が数秒で解ける人間がいるとなると、またもや古臭いユークリッド幾何学の定理の存在が脳裏にちらついてくる。まずは、古代ギリシア哲学者を目指す「ユークリッドマスター」方式ではなく、より近代的なデカルトアプローチで解いてみよう(デカルトが「現代」であるとは言わないが、ユークリッド方式よりはコンピュータに馴染む形式であるのは確かである)。

デカルトアプローチ

点P,Q,S,T,Rが乗っているという円の方程式を \begin{equation} (x-x_0)^2 + (y-y_0)^2 = r_0^2 \end{equation} と置くことにする。

まずは、(我々の座標系では)固定点であるQ(0,0), P(0,3)の情報を使おう。この2点は円周上にあるのだから、その座標を上の方程式に代入して得られる方程式は成立しなくてはならない。それぞれ \begin{equation} x_0^2 + y_0^2 = r_0^2 \end{equation} および \begin{equation} x_0^2 + (3-y_0)^2 = r_0^2 \end{equation} である。この二つの方程式を連立すると$x_0$と$r_0$を消去することができ、$y_0$に関する線形方程式が手に入り、それを解くと \begin{equation} y_0 = \frac{3}{2} \end{equation} となる。

次に、点Dの2つの自由度によって表現できる点S, Tが円の方程式を満たすことを利用する。そもそもの2つの自由度として利用したのが点Dの位置であり、点Aからの距離を表す動径$S$と(y軸から測った)偏角$\phi$によって \begin{equation} \boldsymbol{r}_D = 5\boldsymbol{e}_y + S\boldsymbol{e}_r(\phi) = 5\boldsymbol{e}_y + S\left(\sin\phi\boldsymbol{e}_x-\cos\phi\boldsymbol{e}_y\right) \end{equation} と表すことにした。これにより、点T,Sは次のようになることをすでに調べてある。 \begin{equation} \boldsymbol{r}_T = 5\boldsymbol{e}_y + \frac{1}{5}S\boldsymbol{e}_r(\phi) \end{equation}

\begin{equation} \boldsymbol{r}_S = 5\boldsymbol{e}_y + \frac{2}{5}S\boldsymbol{e}_r(\phi) \end{equation}

この結果を円の方程式に代入すると2つの方程式が手に入り、驚くべきことに$x_0$と$\phi$を含む項をすべて消去することができ、残った$S$に関する方程式が$S^2=125$となる。この自明な方程式を解けば \begin{equation} S=5\sqrt{5} \end{equation} を得る。つまり、 \begin{equation} \overrightarrow{AT}=\boldsymbol{r}_T - 5\boldsymbol{e}_y = \boldsymbol{r}_T-\overrightarrow{QA}= \sqrt{5}\boldsymbol{e}_r(\phi) \end{equation} となって、答え$AT=\sqrt{5}$を得る。$\square$

ちなみに、点Rの座標もすでに求まっており、 \begin{equation} \boldsymbol{r}_R = \boldsymbol{e}_y + \frac{1}{5}S\boldsymbol{e}_r(\phi) \end{equation} の形を持っている。ここに上の結果を代入したものを円の方程式に代入すると \begin{equation} 3+\sqrt{5}\left(\cos\phi-2x_0\sin\phi\right)=0 \end{equation} を得る。また、点S,Tの座標を代入してすでに手に入れてある方程式にSの値を代入したものは \begin{equation} 15-\sqrt{5}\left(7\cos\phi+2x_0\sin\phi\right)=0 \end{equation} である。連立して$x_0$を消去すると \begin{equation} -12+8\sqrt{5}\cos\phi = 0, \end{equation} すなわち \begin{equation} \cos\phi = \frac{3}{2\sqrt{5}}, \quad \sin\phi = \frac{\sqrt{11}}{2\sqrt{5}} \end{equation} を得る。この結果を使うと \begin{equation} x_0 = \frac{9}{2\sqrt{11}} \end{equation} となる。これにより、点A, P, Q, S, Tの全ての位置が定まり、円の方程式も決まった。$\square$

問題文には$DR=4\sqrt{3}$であるというヒントが与えられているが、これも簡単に確認できる。すなわち、 \begin{equation} \overrightarrow{DR}=\overrightarrow{Q R}-\overrightarrow{Q D}=(\boldsymbol{e}_y+\sqrt{5}\boldsymbol{e}_r)-(5\boldsymbol{e}_y+5\sqrt{5}\boldsymbol{e}_r) \end{equation} であるから、 \begin{equation} |\overrightarrow{DR}|^2 = (-4\boldsymbol{e}_y-4\sqrt{5}\boldsymbol{e}_r)^2 = 48 \end{equation} よって$DR=4\sqrt{3}$が確認できた。$\square$

ユークリッド的な定理をデカルトアプローチで探し出す試み

共通テストの問題を、上のようなデカルトアプローチで解くと結構な時間がかかってしまう。おそらくは、高校数学で「気の利いたユークリッド風の幾何学定理」が導入されており、それを暗記して使いこなせるように受験生たちは「よくトレーニング」されているはずである。ここでは、それをデカルトアプローチで導出してみよう。

予想されるのは、ある角度$\phi$で交わる半直線2本に、円が重なっている場合だろう。この状況をsvgで表現してみる。 A S T P Q

AP:AQとAS:ATの間になんらかの定理が存在するのであろう。それを見つけ出すために、まずはAPQが乗っている直線を$x$軸とするデカルト座標系を考える。AP=$a$, AQ=$b$としよう。

次に、S,Tを極座標で表そう。AS=$c$, AT=$d$とし、角度$\angle TA Q=\phi$とすれば、$S(c\cos\phi, c\sin\phi)$, $T(d\cos\phi,d\sin\phi)$となる。

最後に円の方程式を \begin{equation} (x-x_0)^2+(y-y_0)^2=r_0^2 \end{equation} とする。上の考察でやったように、4点の座標を円の方程式に代入し、連立方程式を解けばよいのである。

まず点P,Qを代入すると \begin{equation} x_0 = \frac{a+b}{2} \end{equation} が求まる。この結果を円の方程式に戻すと \begin{equation} \left(\frac{a-b}{2}\right)^2+y_0^2=r_0^2 \end{equation} という関係式を得る。これにより$x_0,r_0$を円の方程式から抜くことができ、その形は \begin{equation} x^2+y^2-(a+b)x-2y_0y+ab=0 \end{equation} となる。

次に、この方程式に点S,Tの座標を代入する。興味深いことに$\phi$と$y_0$を含む項は全て相殺して消えてしまい、 \begin{equation} (c-d)\left(1-\frac{ab}{cd}\right)=1 \end{equation} という綺麗な関係式が残る。$c\ne d$なので、 \begin{equation} ab=cd \end{equation} というのが最終結果である。実はこれが「方べきの定理」と呼ばれるものになっているらしい。共通テストではこの関係式を使って解かせるのが意図されていたのだ!

問題では$d=2c$であり、$a=2,b=5$であったから、$2c^2=10$という方程式が「方べきの定理」によってものの1秒程度で成立することがわかり、これを解くと$c=\sqrt{5}$が5秒以内に手に入るというわけだ。

もし共通テストがこういうタイプの解き方を期待しているとすれば、日本の未来は暗いだろう。なぜなら、こういうのはAIの方が得意だからだ。人間は時間がかかっても「ノントリビアル」な思考方法の開発の方に頭を使うべきである(とはいえ、デカルトアプローチのほうがコンピュータに適しているというのは皮肉であるが)。