複天一流:どんな手を使ってでも問題解決を図るブログ

宮本武蔵の五輪書の教えに従い、どんな手を使ってでも問題解決を図るブログです(特に、科学、数学、工学の問題についてですが)

東京大学2023数学[1]: 小問(1)の解析的解答

復習

さて、設問[1]-(1)の結論を出すときがやってきた。まずは問題を見直しておこう。

数学入試問題 I-(1)(東京大学2023)

それから$f(x)=|\sin(x^2)|$のグラフも見返しておこう。

$f(x)=\sin(x^2)$のグラフ

色分けした部分の面積が積分$A_k$に対応している。灰色の部分が$A_0$に対応するが、問題文では$A_1$(濃い水色の部分)から定義されている。

$A_k$は単純減少列で、最後は同じような値に収束していく(コーシー列)。グラフをみるとわかるように、この面積を三角形で近似するならば、その「高さ」は常に1であるのに対し、幅\begin{equation}h_k=\sqrt{(k + 1)\pi} - \sqrt{k\pi}\end{equation}は$k$の増加とともに次第に減少する。それが主因となって、$A_k$が減少列になっているように見える。

まずは手始めに$h_k$がコーシー列になっているか調べてみよう。$A_k$がコーシー列であることは数値計算で確認してあるが、その主因が「幅」であるならば$h_k$もコーシー列だと予想するのはごく自然であろう。

幅$h_k$はコーシー列か?

コーシー列の判定方法はいろいろ派生版があるだろうが、我々は次の式を採用してきた。\begin{equation} 1-\frac{h_{k+1}}{h_k} \rightarrow 0 \quad k\rightarrow\infty\end{equation}

さっそく計算してみよう。

\begin{align}\frac{h_{k+1}}{h_k} = &\frac{\sqrt{(k+2)\pi} - \sqrt{(k+1)\pi}}{\sqrt{(k+1)\pi}-\sqrt{k\pi}} = \frac{\sqrt{1+\frac{1}{k+1}}-1}{1-\sqrt{1-\frac{1}{k+1}}} \end{align}

$k\rightarrow\infty$において、テイラー展開の2次近似を平方根の部分に適用すると

\begin{equation}\sqrt{1\pm\frac{1}{k+1}} =\left(1\pm\frac{1}{k+1}\right)^{1/2} \simeq 1\pm\frac{1}{2(k+1)} - \frac{1}{8(k+1)^2}\end{equation}となるので、

\begin{equation}\frac{h_{k+1}}{h_k} \simeq \frac{1-\frac{1}{4(k+1)}}{1+\frac{1}{4(k+1)}}\rightarrow 1 \quad (k\rightarrow\infty)\end{equation}となるので、予想通り$\left\{ h_k \right\}$もコーシー列であることがわかった。

幅の極限?

$h_k$がコーシー列だということは、$k\rightarrow\infty$のとき$h_k$がある値に収束する可能性がある。果たしてその値は計算できるだろうか?

\begin{align}h_k= &\sqrt{(k+1)\pi}-\sqrt{k\pi} = \sqrt{k\pi}\left(\sqrt{\frac{k+1}{k}}-1\right) \nonumber \\ \simeq &\sqrt{k\pi}\left( 1+\frac{1}{2k}+\cdots -1\right) = \frac{\sqrt{k\pi}}{2k} = \frac{\sqrt{\pi}}{2}\frac{1}{\sqrt{k}}\end{align}

グラフを見ると、幅$h_k$は有限の値に収束するのではないかという淡い期待があったが、どうやらそうはならず、$h_k\rightarrow 0$のようである。ただし、かなりゆっくりと減少していくようである。

変数変換

さて、実際の入試では$x^2=\mathcal{X}$と変数変換して分析するのがよいらしい。$2xdx = d\mathcal{X}$なので、\begin{equation} dx = \pm\frac{d\mathcal{X}}{2\sqrt{\mathcal{X}}}\end{equation}となる。符号の任意性は$\sin(x^2)$の絶対値の中に繰り込めるので、積分は次のように書き換えられる。

\begin{equation}A_k = \int_{k\pi}^{(k+1)\pi} \frac{|\sin\mathcal{X}|}{2\sqrt{\mathcal{X}}}d\mathcal{X}\end{equation}

$\mathcal{X}$はみにくいので$x$と書き直すとすれば、考察すべき積分

\begin{equation}A_k = \frac{1}{2}\int_{k\pi}^{(k+1)\pi}\frac{|\sin x|}{\sqrt{x}}dx\end{equation}に書き換えられたことになる。

位相の進み方と振幅の減衰

$A_k$が単純減少列である理由として,$h_k$が単純減少列であることを、上で考察した。これは、$\sin(x^2)$の位相の進み方が一様ではなく、「加速的」であることに関連している。$x$の代わりに$t$と書き、これを時間変数だとみなせば、物理の自由落下の時とおなじような議論を経て、位相の進み方が「加速的である」ことがわかるだろう。

$\sin t$の場合、位相は$\theta=t$である。この時、位相の時間微分(「位相速度」と呼ぶことにしよう)は$d\theta/dt=1$となって一定である。一方、$\sin(t^2)$の場合、位相は$\theta=t^2$である。位相の時間微分(つまり位相速度)は$d\theta/dt=2t$であり、「等加速度」といえるだろう(つまり$d^2\theta/dt^2=2$)。

後者の場合、位相の進みが加速的なので、正弦関数の零点の分布はどんどん「詰まってくる」。これが$h_k$が単調減少列になった「物理的な解釈」である。

変数変換した後は、位相の進みが「等速」になってしまった。保存則の観点から面積を単調に減少させるには、振幅を減衰させるほかはない。その調整がkの平方根の逆数だったというわけだ。いうなれば、横の減少を縦の減少に書き換えたのが、変数変換$x^2=\mathcal{X}$の「物理的な意味」だったということである。背後にあるのが「面積保存の法則」である。

幅ではなく、振幅の減衰で単調減少列を作る「からくり」:$\sin(x)/\sqrt{x}$と$\pm 1/\sqrt{x}$のグラフ

とどめ!

$x>0$において、関数$j(x)=\frac{1}{\sqrt{x}}$は単調減少のグラフである。したがって、定義域$R_k\equiv [k\pi:(k+1)\pi]$において\begin{equation}\frac{1}{\sqrt{(k+1)\pi}} < j(x) < \frac{1}{\sqrt{k\pi}}\end{equation}が成り立つのは明らか。

この不等式のすべてに$|\sin(x)|/2$をかけて、定義域$R_k$で積分する。

\begin{equation}\frac{1}{\sqrt{(k+1)\pi}}\frac{1}{2}\int_{R_k}|\sin x|dx< \frac{1}{2}\int_{R_k}|\sin x| j(x)dx < \frac{1}{\sqrt{k\pi}}\frac{1}{2}\int_{R_k}|\sin x|dx\end{equation}

ここで、

\begin{equation}\frac{1}{2}\int_{R_k}|\sin x|dx=1\end{equation}であることは明らかであるし、\begin{equation}\frac{1}{2}\int_{R_k}|\sin x| j(x)dx=A_k\end{equation}であるから、問題は証明された。$\square$

東京大学に合格できる優秀な学生たちは、この最後の短い部分を書くだけで、この問題を片付けてしまうのであるから、まさに「コスパ」がいいとしか言いようがない。

しかし、我々の「無駄なあがき」もまんざら無駄ではないだろう。なによりpythonのプログラムが書けるようになったし、ライブラリを用いてグラフもかけるようになった。gnuplotで気が利いたグラフも描けるし、その図を見て単調減少列の2種類の表現方法も理解した。さらにはコーシー列などという「洒落た」数学用語まで使えるようになったのである!「馬鹿」であるというのも、なかなか「馬鹿」にできないものである(受験的にはこういうのを"sour grapes"というのであろう)。

おまけ:変数変換した後の被積分関数のグラフ

$f(x)=\frac{\sin x}{\sqrt{x}}$のグラフを再度作ってみた(gnuplot使用)。今度は、面積部分を強調して、塗りつぶしてみた。

$f(x)=\sin x/\sqrt{x}$のグラフ