複天一流:どんな手を使ってでも問題解決を図るブログ

宮本武蔵の五輪書の教えに従い、どんな手を使ってでも問題解決を図るブログです(特に、科学、数学、工学の問題についてですが)

「失われた」対数関数の性質

共通テスト2024数II.B [第一問]

今回からしばらくは数II.Bの問題を考えてみたい。基本問題である第一問は対数関数に関する問題であった。

先日の試験監督の昼休みのことである。T大の英文学の博士号を取得した文系の先生が、同じくT大の理系の先生と対話をしていた際、両者が同意見であったので驚いたのだが、近年の共通テストの分量は「やたらに多すぎる」という不満を漏らしていたのである。解き方が決まっており、条件反射的にやれば「比較的簡単」な内容を丸暗記し、マシンのように大量の問題を短時間にこなす、というやり方を共通テストは(学生たちに)要求しているのではないか?というのである。ちょっと立ち止まって「考える」ことを許さないタイプの試験だというのである。この「(軽微な問題の)大量処理」型の能力は、AIとの競合時代にあって、若い学生の教育法としては「役たたず」のように感じられる。現代における人間のあるべき姿は、例外事象や予想外の新発見などを考察/研究する存在であって、汎用案件の手続き処理をこなす存在からは脱却しつつあると感じるのである。

先日の「メネラウスの定理」や「方べきの定理」といった古いユークリッド幾何学を使った問題に見られたように、「そこまで(こんな古い定理に)習熟して何の意味があるの?」と理系人間ですら感じてしまうようなタイプの問題が、数学の試験で頻繁に見られるようになっている。おそらく英語の先生たちも、似たような感想をもっているのではないかと思った次第である(多分、答えを一意的にしようと試みているのであろうが、言語たるもの無数の「正解」というものが可能なはずで、それを排除するようなテストは本来「無意味」である)。

指数関数の逆関数としての対数関数

さて、対数というのは日常生活にほとんど登場しないので、なかなか高校生は馴染みが持てないものである。三角関数なら「波動」をイメージすることでなんとかなるが、対数となるとなかなか骨が折れる。とはいえ、最近では「指数関数的爆発」のような表現を、ウイルス感染の広がりとか、怪しいビジネスモデルの被害者の数とかに適用する機会が増えてきたので、その逆函数である対数関数も多少は「馴染めるようになった」のかもしれない(嘘である)。

とはいえ、やはり対数関数は指数関数の逆関数という認識は重要である。対数関数を考えたり、利用する際の出発点といってもいいだろう。なにより直感的なイメージとしては指数関数に戻してから考えた方がわかりやすいと思うのである。ということで、 \begin{equation} y=\log x \leftrightarrow x = \text{e}^y \end{equation} という変換にはよく「習熟」しておいた方が良いと思われ、対数関数の直感的な性質を「裏返して」対数函数を理解するというのが基本的なスタンスになるのではないかと思う。

ネイピア数

$\text{e}=2.7182818\cdots$はネイピア数と呼ばれる特別な無理数である(円周率みたいなもの)。数値計算するなら、テイラー展開を用いて \begin{equation} e = 1 + 1 + \frac{1}{2} + \frac{1}{3!} + \cdots = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} \end{equation} で計算できる。(ちなみに、$\pi$について似たような方法で計算しようと思ったら、逆正接テイラー展開をつかうことになる。)どうしてこのような数字を特別視するのか、という疑問があるだろうが、それに対する回答としては、微分方程式 \begin{equation} \frac{df(x)}{dx} = f(x) \end{equation} に由来があると答える科学者/数学者が多いだろうと思われる。この式を満たす連続かつ微分可能な関数$f(x)$は何度微分しても形が変わらないという特別な性質をもっているので、この函数テイラー展開して$x=1$とおくと、ネイピア数が出てくるのである。

自然対数と常用対数

通常、科学者にとっての「対数」とは「自然対数」を意味する。それは底がネイピア数の対数である。一方、数値計算や実験や測定値に適用される対数として、10を底とする対数もよく利用される。こちらは「常用対数」と呼ばれる。人間の指が両手で10本であることに起因する10進法に根ざした表現であろう。

自然対数はnatural logarithmと英語で表現されるため、国際的には$\ln x$と書くことが多いらしいが、$\log x$と書く科学者も多いと思う。常用対数はcommon logarithmと表現される。これを「$\lg$と書き表そう」という運動があるようだが、多くの科学者/数学者は$\log x$と書いてしまっていると思う。私が知る限り、底についての但し書きを論文や教科書の冒頭に書いて、あとは「省略形」$\log x$を適用してしうまう用法が多い。したがって、論文の途中から読み始めたとき、$\log x$の底が10なのかeなのか勘違いしてしまう場合があるかもしれない。

ちなみに日本の高校数学の教科書では省略形は用いず、かならず底が指示された表現$\log_ax$が採用されている。これだと間違いはないのだが、自分で計算しているときは書くのが面倒であるため、どうしても最後に「省略形」に収束していってしまうきらいがある。

このブログでは、基本的には自然対数のみを扱い、それを$\log x$と書くことにする。常用対数は$\log_{10}x$と書くか、冒頭で断ってから$\log x$を適用することにする。

未熟な私の反省点

今回の問題を解くに当たって大事なのは、常用対数であれ、自然対数であれ、その底が1より大きいという点である。 \begin{equation} 1 < \text{e} < 10 \end{equation} 多くの科学者がこの性質に慣れ親しみすぎて、対数函数の本当の性質を「忘れてしまっている」傾向がある、ということを言いたいのである。能書きが長くなったが、実を言うと、私はこの問題を間違えてしまったのである(お恥ずかしい限り)。普段から、常用対数と自然対数を使ってばかりいて、一般的な対数関数の性質をうっかり忘れてしまったのである。

私が勘違いしてしまったのは以下の点である。

対数関数は単調増加関数である。

これは「自然対数関数」や「常用対数関数」に対しては当てはまるが、「対数関数全般」には当てはまらないことが後でわかる。今回は、この誤った認識に対する反省の備忘録である。

(つづく)