複天一流:どんな手を使ってでも問題解決を図るブログ

宮本武蔵の五輪書の教えに従い、どんな手を使ってでも問題解決を図るブログです(特に、科学、数学、工学の問題についてですが)

東大数学2024問題5 (part 2):断面の形の分析

前回のあらすじ

熱中症に苦しめられてしばらく手がつけられなかった数学問題の研究であるが、熱中症の理解が進み、対処法がわかったことで体調が改善し、再開することができた。

熱疲労」の残る脳みそなので、今回は「カラータイマー点滅」までになんとかなりそうな立体図形の問題に挑むことにした。問題の概要を理解し、円錐の体積が関連するらしいところまで分析は進んだ。今回はいよいよ積分のところに踏み込んでみたい。

断面の形(練習)

平面Hの部分領域が三角形ABDである。これをx軸周りに回転させた時、三角形が通過する領域の体積を求めるのがこの問題の主旨である。

x軸を対称軸とする「軸対称性」があるので、積分はx軸に沿って実行するべきである(ちなみに、これは古典電磁気学でよくやるタイプの計算手法である)。本問では三角形ABDについて考察しなくてはならないが、面倒臭い場合わけが発生するので、まずは三角形ABCについて問題を解いてみたい。ある意味「練習」問題ということになろう。これなら積分範囲に場合分けが発生しないので、積分計算の主要点を理解するには打ってつけである。また、三角形ABDは三角形ABCの部分領域になっているから、求めるべき体積は、この練習問題で求めた体積よりも小さな値となるはずだ。つまり正解に対する「上限値」が手に入ることになる。

こういうやり方は物理でよく使われる。精密な値を出す前に、簡単に解けるモデルを解いて「上限値」や「下限値」を手にして、実験の目安とする手法である。ヒッグス粒子ニュートリノの質量などもこういう方法でまず上限値が計算され、実験データの分析や加速器のデザインに利用された。

三角形ABCを表す平面の方程式は$x+y+z-1=0$で、その範囲は$0\le x \le 1,0\le y \le 1,0\le z \le 1$である。

次に$x=x_0, 0\le x_0 \le 1$という平面を用意する。これはx軸に垂直な平面である。この平面で三角形ABCを「切断」したときの断面は線分になる。この線分をx軸周りに回転させたものが、求める体積の「微分体積」に相当する。まずは、切断面に相当する線分の方程式を求めよう。といっても、平面Hの方程式と切断平面$x=x_0$とを連立するだけなので、 \begin{equation} z = -y+ 1 -x_0 \end{equation} となる。$(y,z)$平面で考えたとき、この方程式の第一象限の部分が求める「断面」つまり線分である。傾きは$-1$なので、z切片、y切片共には$1-x_0$である。この線分をx軸周りに回転させると、(2次元版の)穴あきドーナツのような形になる。

「ドーナツ領域」$x_0=0.25$の場合
その外周半径の大きさは自明で$1-x_0$であるが、穴の半径については$(y,z)$平面の原点から線分までの「距離」となる。距離の公式を用いても良いが、線分の傾きが$-1$つまり45度の「斜面」なので、ピタゴラスの定理を使えば、$(1-x_0)/\sqrt{2}$となることは簡単にわかる。

したがって、このドーナツ型の面積$S(x_0)$は \begin{equation} S(x_0) = \pi\left(1-x_0\right)^2 - \pi\left(\frac{1-x_0}{\sqrt{2}}\right)^2 = \frac{\pi}{2}\left(1-x_0\right)^2 \end{equation} で与えられる。

求めるべき立体の、厚み$dx_0$をもった「断面」に相当する微小体積は$dV(x_0) = S(x_0)dx_0$であるから、これを積分すると三角形ABCをx軸周りに回転させた時の立体の体積が計算できる。積分範囲は$x_0$のそれであるから、 \begin{equation} V_{\triangle\text{ABC}} = \int_0 ^1 S(x_0) dx_0 = \frac{\pi}{6} \end{equation} となる。

あとで計算するが、本問題の正解は \begin{equation} V_{\triangle\text{ABD}}= \frac{\pi}{9} \end{equation} となるので、予想通り \begin{equation} V_{\triangle\text{ABD}} < V_{\triangle\text{ABC}} \end{equation} が成立していることがわかる。

積分の主な内容は、この練習問題でみた計算とほぼ同じである。やり残しているのは、三角形ABDと三角形ABCでは、辺ADと辺ACの不一致からくる修正点だけである。この修正点によって積分範囲に変更が発生し、計算結果が変わるのである。

とはいえ、修正するのは積分範囲のうち$0\le x_0 \le \frac{1}{3}$の部分だけであり、残りの$\frac{1}{3}\le x_0 \le 1$の範囲については上の積分がそのまま利用できる(ことが後でわかる)。その領域の体積を$V_1$と書き表すことにして、ここで計算してしまうことにする。 \begin{equation} V_{1} = \int_{1/3} ^1 S(x_0) dx_0 = \frac{4\pi}{81} \end{equation} となる。この結果は後で再利用するので記憶しておこう。

ドーナツ領域を描くgnuplotスクリプト
x0=0.25

set size square
set samples 100000

set arrow 1 from 0,0 to 1,0
set arrow 2 from 0,0 to 0,1

set xlabel "X"
set ylabel "Y"

set style fill transparent solid 0.4

c1(x)=(x<1-x0)? sqrt((1-x0)**2 - x**2) : NaN
c2(x)=(x<(1.-x0)/sqrt(2.))? sqrt((1-x0)**2/2. - x**2) : NaN

plot "+" using 1:(c1($1)):(c2($1)) with filledcurves y=0 fc "#224411" notitle,\
-x+1-x0 lw 2, \
c1(x) lw 2, \
c2(x) lw 2