前回のあらすじ
「平面波」を利用してデルタ関数を定義するやり方に疑念を抱き、フーリエ解析の復習を始めた。特に着目しているのは、関連する無限区間での積分が不定値を与えるように思えるにもかかわらず、その「規格因子」があたかも$1/2\pi$のように見える不自然さである。この不思議な計算をいったい数学がどう説明していたのか、思い出そうとあがいている。
無限区間の積分に垣間見える不思議さを回避するため、有限区間の積分に「逃げ込む」ことにしたが、これが世に言う「フーリエ級数展開」であった。その基本部分を復習した結果、範囲$\left[-\frac{L}{2}: \frac{L}{2}\right]$で定義された周期関数$f(x+L)=f(x)$を、三角関数の基底$\frac{1}{\sqrt{L}}\text{e}^{ik_nx}, \ k_n = 2\pi n /L$でフーリエ級数展開 $$ f(x) = \frac{1}{\sqrt{L}} \sum_{n=-\infty}^\infty c_n \text{e}^{ik_nx} $$ することによって表せるところまで、前回はたどりついた。今回は、ここから一気に最後の結論まで持っていこうと思う。
「お約束」の計算
展開係数$c_n$は、量子力学では確率振幅と呼ばれる量に対応する。量子力学が殊更この量の計算に執念を燃やすのは、(人間がその全貌を把握することができない$f(x)$に相当する量子状態が発生した時)確率振幅の二乗$|c_n|^2$が、人間に観測できる$n$というイベントが現実化される確率を与えるからである。例えば、コインの裏が出るか表が出るかは、(理想的な場合)両者が等確率で「共存した」量子状態(重ね合わせ)になっているが、人間はこれをそのまま感知することはできず、「観測」という行動によって(人間が観測できる)表か裏かどちらかのイベントに決めてしまおうとする。この行為が量子状態に干渉し、波動関数がどちらか一方のイベントに「瞬時に変化する」、というのがいわゆるコペンハーゲン解釈というやつである(波動関数の「崩壊」)。
フーリエ級数展開の展開係数は、複雑な周期関数の中に、三角関数の周波数成分がどのくらい混じっているか知るための量になっている。例えば、地震の振動は時間の関数として複雑な波動になっているが、フーリエ解析によって、この複雑な地震波を、様々な周波数を持つ三角関数(時間の関数としての三角関数)に分解し、低周波振動と高周波振動がどの程度のごちゃごちゃ感で混じり合っているか調べることができる。仮に、その成分の中に高層ビルと共鳴してしまうような低周波成分が多量に含まれていると、新宿あたりで大きな被害が出てしまうことが予見できたりする(大阪に住んでいて興味がなければ、特に予見しなくてもいいが)。
その動機はさておいて、フーリエ解析では$c_n$を計算するのが大きな目的の一つであるので、どの教科書を見ても、展開係数の「形式解」が必ず書かれている。我々もそれは避けて通ることはできない(笑)。この形式解は、フーリエが気がついた「正規直交性」という画期的なアイデアを最初に堪能する場所であり、形式解そのものよりも、この計算自体のほうが重要である。
三角関数の正規直交性とは、前回求めた関係式 $$ \langle n | m\rangle \equiv \frac{1}{L}\int_{-L/2}^{L/2}(\text{e}^{ik_nx})^*\text{e}^{ik_mx}dx = \delta_{nm} $$ のことである。平面波$\text{e}^{ik_nx}$がこの積分区間の中で、因子$1/\sqrt{L}$で規格化できる(つまり、$\text{e}^{ik_nx}/\sqrt{L}$とする)ことを前回確認し、そのとき得た結果がこの式であるが、これなら「錆びついた頭」の私でも直感的に理解できる。
フーリエ級数展開の係数$c_m $を求めるためには、展開式の両辺に$(\text{e}^{ik_m x}/\sqrt{L})^*$を掛けてから、区間$\left[-\frac{L}{2}: \frac{L}{2}\right]$で積分する。右辺に正規直交性が適用され$n= m $以外の項は消えてなくなってしまうが、ここが重要な点である。こうして「お約束」の結果が手に入る。 $$ c_m = \frac{1}{\sqrt{L}}\int_{-L/2}^{L/2}f(x)\text{e}^{-ik_m x}dx $$
デルタ関数が必要となる訳
$f(x)$の形が与えられれば、この式を使って展開係数を計算することができる。教科書には「ノコギリ波」とか、「矩形波」とか、電子回路で登場するような色々な波形(周期関数)が登場し、そのフーリエ級数の展開係数を計算する練習問題をやらされることになる。これは大昔に私もやらされた演習の一つである。展開項数を増やしていくたびにグラフが次第にオリジナルの形に収束していくのをみるのはとても気持ち良いものである。その一方で、境界付近で激しい振動が発生し、なかなか収束しないタイプの周期関数もあり、その場合の処置についての講義を聞いた記憶がぼんやりある。
ここでは、そういうのは必要ない。欲しいのはデルタ関数である。そこで、上の展開係数の形式解をオリジナルのフーリエ級数展開の式に入れてしまうという「愚挙」に挑戦する。左辺にも右辺にも$f(x)$が登場するので、自明な形$f(x)=f(x)$になんとか持ち込めるような条件式が見つけられたら「御の字」である。
さっそくやってみよう。
さて、今回もAIに食われるのを阻止するために、このブログの続きの内容はnoteへ移行することにする。