複天一流:どんな手を使ってでも問題解決を図るブログ

宮本武蔵の五輪書の教えに従い、どんな手を使ってでも問題解決を図るブログです(特に、科学、数学、工学の問題についてですが)

Unistellar eQuinox2で彗星を観測する

UnistellarのeQuinox2で彗星観測

Unistellar社が販売しているスマート望遠鏡「eQuinox2」を手に入れたので、そのお試し観測をやってみた、というのが前回までの内容であった。恒星、メシア天体、銀河、星雲など、たいていの天体についての位置データは、望遠鏡(eQuinox2)のシステムに事前に登録されているし、太陽系の惑星などは軌道がわかっているので、観測地点の緯度経度、観測日時などを正しくシステムに与えるだけで、夜空におけるその位置は速やかに計算される。つまり「固定天体」に関しては、ユーザーはシステムの「言うなり」になっていればよいのである。

一方で、新星や超新星のように急に現れたり、彗星のように夜空における位置変化が大きな「動的天体」の観測については、システムにその位置データをあらかじめ記録しておくことができない。このような動的天体の観測に対して、eQuinox2はどう対処しているのであろうか?

Unistellarが配布するクイックスタートガイドにも、テクニカルガイドブックにも、説明や記述がまったくない。今回も検索して調べてみるしかなったが、やってみるといろいろと情報が手に入った。しかし(予想通り)その説明はわかりにくいものであった。「実際にやってみたよ」といった具体例もあまりなく、自分でやってみるまでは、「eQuinox2のシステムにあらかじめ登録されていない天体を本当に観測できるのであろうか?」と不安だらけであった。

少々暗くなりつつはあるものの、数十年ぶりの明るい彗星「紫金山アトラス彗星」が今ちょうど地球の近くにいて、観測の好機にある。そこで、この彗星を標的に、eQuinox2の「動的天体観測」のやり方を調べてみた。

Unistellar社のサーバーからデータをダウンロードする

完全な「新発見」天体ならば自分で座標計算する必要があるだろうが、たいていの動的天体は世界のプロ並みアマチュア天文家がすでに発見し、その位置情報などが公開されている。私たち「ただの素人天体観測者」はその「2番煎じ」的な観測をすることが多い。とはいえ、多くの後続観測によって新たな科学的発見がなされることもあるし、そもそも彗星の写真は綺麗だから自分でも撮影してみたい!そのような場合は、といっても「たいていの場合」はこちら(=2番煎じ)だろうが、Unistellar社がWebサーバーに軌道データをアップロードしてくれているので、そのデータをiPad/iPhoneに吸い取って、自分のeQuinox2にマウントすることができる。こうすることでeQuinox2でも彗星などの動的天体を観測することができるようになる。

最初の0歩(事前準備)

ということで、さっそくデータのダウンロードをやってみたい、と思うだろうが、実際に彗星の観測をeQuinox2でやってみようと思う人は、まずはその前に望遠鏡を組み立て、ダークフレーム取得、オリエンテーション、そしてバーティノフマスクをつかった焦点合わせ、といった望遠鏡の設定(組み立てやオリエンテーション)や調整(カリブレーション)をあらかじめやっておくべきである。かくいう私は、データのダウンロードの方ばかりに注意が行ってしまい、最初の観測ではうまく彗星を捕捉することができなかったのである....。その理由に関しては、これからの説明を読んでいけば納得してもらえると思う。もちろん、観測を行わず、ただ単に「どうやってやるのか」だけに興味がある人は、望遠鏡を設置する必要がないのは当然である。

最初の一歩(準備)

さて、望遠鏡の設定と調整が終わったと仮定しよう。最初にやるべきことは、iPadの接続を通常のインターネット接続に戻すことである。

望遠鏡の設定を実施するためには、望遠鏡自体が提供するWiFi LANである"eQuinox2-xxxxxx"という形式のネットワーク名をもったLANにiPadを接続しなければならなかった(すでに以前の記事で説明したとおり)。しかし、彗星の位置データをUnistellarのwebサーバーからダウンロードするには、当然ながら(WiFiの接続を最初の状態に戻して)Internetへ繋ぎ直す必要がある。もちろんiPhoneやCellular+WiFi版のiPadなら、5G/6G回線を使ってネット接続ができるだろうから、その場合にはWiFiのネットワークを変更する必要はない。これはあくまで、WiFi専用のiPadを用いてeQuinox2を操作する私のような観測者向けの注意喚起である。

第二歩目

ここでいよいよ、天体データのアクセスに挑戦である。

まずはiPadでUnistellarアプリを起動し、HOME画面を映す。そして、HOME画面の下のほうにある「科学」アイコンを探しクリックする。次の2枚の写真は上がiPod/iPhone版、下がiPad版であるが、上の写真の方がわかりやすいと思う。

Unistellarアプリのホーム画面
Unistellarアプリのホーム画面(iPad版)

「科学」セクションに入ると、検索したい「動的天体」のカテゴリーが表示される。地球に衝突する可能性がある小惑星とか、系外惑星のトランジット(食)などである。ちなみに、「宇宙の大変動」という恐ろしげな絵は「超新星爆発」や「新星爆発」のことである。

「科学」セクションの画面

我々が今回興味を持っているのは彗星なので、「彗星活動」の絵をクリックして先へ進む。 Unistellarアプリの画面が切り替わり、次のような感じとなる。

「彗星活動」モード

「予測を見つける」ボタンを押すわけだが、ここから先はひどく非効率な作業行程を強いられる。イラつかないように頑張ろう。ボタンを押すと、Webブラウザが起動し、アプリからしばし離れることになる。

3歩目:彗星活動(Cometary activity)

ブラウザに移行した後のUnistellarウェブサイトには、デザイン上に問題がたくさんあって、かなり非効率的な作業を強制されることになるのだが、そこは我慢しよう

たどり着いたUnistellarのサイトとはCometary activity(彗星活動)の「MISSIONS」の画面である。実はこのページでやることは何もない。Unistellarがおすすめの天体についてニュースを提供しているだけのページだからである。

彗星のデータをダウンロードするためには、画面上の「Comets」というリンクにマウスを当て、プルダウンメニューを引き出す。メニューの上から2つ目が「Comets Ephemeris」という選択肢になっているが、選ぶのはこのリンクである!(下の図参照)

Cometary activityのMISSIONS画面

ちなみにEphemerisというのは天体の位置を時間の関数で表したもので、これこそが我々が欲しい彗星の位置データである。細かいことを言うと、このデータは様々な時間ごとに分割して提供されている。例えば、秋の宵の観測なら、19時過ぎの時間帯になるだろうから、19:20, 19:25, 19:30, 19:35,....といった具合である。それぞれの時間における天体(彗星)の天空での位置(赤経赤緯)が計算されてデータ化されているから、自分が観測できそうな時間のデータを選択してダウンロードするのである。よくばって、現在時刻の1分後などのデータを選んでしまうと、望遠鏡の設定にまごついている間にデータを計算した時刻が過ぎ去ってしまい、望遠鏡がその地点を向いたときには、すでに天体は移動してしまってなにも映らない、ということになるから要注意である(というか、私はこのミスをやってしまったので、ここで忠告も兼ねてメモを書いているわけである)。

第4歩:Comets Ephemerisのセクション

Comets Ephemerisのページに入ると次のような画面が表示される。

Comets Ephemerisのトップ画面

ここから下の方に若干スクロールダウンすると、パラメータ入力のためのフォームが現れる。入力するのは彗星の識別名(これはリストから選択できる)と観測地点の緯度経度の情報である。彗星の名前はもちろん紫金山アトラス彗星であるが、英語名"C/2023 A, Tsuchinshan-ATLAS"を選ぼう。観測地点についてはiPad/iPhoneGPS機能を利用してもよいが、国土地理院のサービスを利用して自分の位置を調べ、その値をインプットしてもよい(前のブログ記事で説明した通りのことをやればよい)。また、彗星の位置計算を始めたい時刻を入力する。繰り返すが、この時間については、思い切って10分後くらいにしておいた方がいいだろう。どうせいろいろなトラブルが発生し、望遠鏡の設定が終わるまでには結構な時間がかかってしまうだろうからである。

フォームにすべてのパラメータを入力した後、「Generate」ボタンを押す。 すると、同じページの下の方に、時間ごとの彗星の位置データが列挙されて追加表示される。

Comets Ephemerisのデータが列挙されたところ

上の写真の例では10月26日の19:25から5分刻みでデータが生成されていることが確認できるだろう。このデータのうち、どれを選べば良いか最初は戸惑うと思うが、例えば、欲ばらずに一番下の19:45のデータなどを選ぼう(実際には、私は一番上の19:25のデータを最初選んでしまい、この時間までに望遠鏡の調整を間に合わせることができず観測に失敗した)。

「選ぶ」といっても、データ項目の一番右側にあるスマートフォンのアイコンをクリックするだけである。これでデータの内容がiPadのメモリにコピーされたのである。間髪入れず、「Unistellarで開きますか?」とダイアログ窓が開くので、「開く」を選ぶ。ここからは、再びアプリへと戻ることになる。

アプリへ戻るダイアログが出たところ

第5歩:Unistellarアプリを使って「天体を入れる」

データをコピーし、アプリに戻ったところが、下の図である。自分で選んだ時刻になると彗星が現れる(夜空での)位置が、座標によって表示されている(薄い字で)。その時間になるまで、この状態で待機する。

そして、その時間が来たら「天体を入れる」ボタンを押すのである!(間違えて「予測を見つける」ボタンを押すべからず。押すと、またCometary activity: MISSIONSのHPへ逆戻りすることになる.....。)

アプリに戻ったところ

これでわかったと思うが、事前に望遠鏡の設定を終わらせておくのがとても大切なのである。よく見ると、画面の右上には「サイエンスミッションを始める前に、望遠鏡のオリエンテーション設定を済ませておいてください」みたいな文書が書いてあることに気づくだろう。

第6歩:彗星が現れる!

「天体を入れる」ボタンを押し、すべてが順調にいけば、次のような彗星の観測像がiPadに映し出されるはずである。

紫金山アトラス彗星が映った状態

肉眼で望遠鏡が向いていく方向を見てみたが、西の地平線の上には雲が薄くかかっていて、肉眼で彗星の位置を把握することは無理であった。いかにこのスマート望遠鏡が素晴らしいかを実感することができた。

ちなみに、アプリ操作しているときの直近時刻のデータを欲張って選んでしまい、その後に望遠鏡の設定に手間取って、計算した時刻をはるかに過ぎてしまった場合(最初の観測)の状況が次の図である。

失敗した時の状況

望遠鏡が向いている位置にはもう彗星はいないのであるから、何も映らないのは当然である。しかし、馬鹿な私は「露出不足?」とか思ってしまい、いろいろと無駄な努力をして時間を無駄にしてしまった....。みなさんはそうならないように注意していただきたい。

ちなみに、位置データがどの程度ずれていくか見てみよう。最初に選んだのは19:25のデータだった。(図を見ると)このときの彗星の座標は(17h28m24.77s, 3°23'31.91'')になっているのがわかる。この観測をしているときの時刻は19:58なので、計算時刻よりも33分遅れていることがわかる。当然彗星は別の場所に移動してしまったのである。一方、観測に成功したのは20:05の時刻のデータだったと思うが、観測を開始したのは20:06のちょっと前であった。ちょっとずれてしまったが、なんとか望遠鏡の視野ないに彗星が入り込んでくれた。座標の値は(19h28m26.24s, 3°23'33.03'')とわずかに動いているのがわかる。この時間変化こそが「動的天体」の本質であろう。

Unistellarのサーバーに観測データを送付し、研究グループの一員として貢献したいならば、一番下の「記録する」ボタンを押し、後でインターネットに繋ぎ直してデータをアップロードするといいだろう。

しかし、個人的な観測を行いたいならば、ここでこのモードから抜けて、いつも「観測モード」に戻るのがいいだろう。望遠鏡は彗星の方向を向いているので、そのままの状態を維持しつつ、観測モードへと移動すればよい(画面左上の矢印ボタンなどを押してHOME画面に戻る)。

結局、「記録」した内容を個々の観測者は除いたり、解析したりすることはできない。あくまでUnistellarサーバーが利用するだけのデータであるらしい。

最終歩:観測モードにて

望遠鏡は彗星の方を向いているので、観測モードに移行しても、iPadの画面には彗星が映っている。ただし、ライブビューになっているので、彗星の姿は淡いものになっている。とはいえ、中心部分は確認できるだろう。

観測モードのライブビューの状態

私の場合は、この微かな光を利用して、彗星の位置を手動で微調整して視野の中心にもってくるようにした。「スローモード」ボタンを押しておくのを忘れないように。失敗すると彗星が視野から外れてしまい、これまでの作業を一からやり直すはめになるだろう(幸いにも、私はその失敗はせずに済んだ)。

「観測」モードから「操作」モードに移ったところ

上の画面の右にある「スロットル」を指で操作して、彗星の位置を視野の真ん中へと移動させるのである。少しずつゆっくり、慎重にやるのがコツである。

さて、淡い彗星が見たいわけではないので、画質を上げるために「エンハンストビジョン」に切り替えよう。

44秒の露出によって得られた画像(右上の恒星はへびつかい座βか?)

ここに至るまでに様々な失敗をしてしまったため、観測時間を随分無駄にしてしまった。そのせいで、彗星の高度はかなり落ちてしまい、西の地平線の上にたなびく雲がかかり始めてしまった。エンハンストビジョンは度々中断され、結局60秒を超えることはできなかった。この日を境に毎晩曇りか雨の日が続いて観測ができなくなってしまったので、この失敗は非常に悔やまれる。

この状態で「カメラ」アイコンを押してjpegデータに落とし、写真アプリ、あるいはiPhotoで画像処理して得られたのが次の画像である。これが今回の最終到達地点である。まあ、最初の試みとしては「成功」といってよいのではないだろうか?

画像処理したもの